写真1●三菱東京UFJ銀行の畔柳信雄会長
写真1●三菱東京UFJ銀行の畔柳信雄会長
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 「いまの時代、自動車をはじめあらゆる工業製品や社会システムがソフトウエアによって動いている。そのソフトをつくるITプロフェッショナルは技術革新の担い手の主役であり、素晴らしい仕事だ」。三菱東京UFJ銀行の畔柳信雄会長(写真1)は2009年10月28日、「ITpro EXPO 2009」の基調講演に登壇し、こう述べた。

 畔柳会長は三菱東京UFJ銀行のシステム完全統合プロジェクト「Day2」を経営トップとして率いた。これに先駆け、1990年代には三菱銀行と東京銀行の合併に伴うシステム統合プロジェクトを担当役員として率いた経験を持つ。さらにさかのぼると、1980年代の第三次オンラインシステム(三次オン)の開発にもかかわった。現在はプロジェクトマネジメント学会員でもある。これらの経験を基に、畔柳会長は経営トップの立場からITプロフェッショナルに向けて、プロジェクト運営の勘所を述べた。

 一つ目は「小さく産んで大きく育てる」という考え方だ。システム部門は利用部門の要望を基にシステムをつくるが、利用部門の要望は常に変わる。要望を「あれもこれも」と織り込みすぎて理想ばかりを追うとプロジェクトは失敗する。「まずはシステムを小さくつくることが重要であり、そのときに後から機能を追加できるように拡張性を確保しておく工夫が欠かせない」(畔柳会長)。ただし合併に伴うシステム統合だけは「大きく産まざるを得ない」と述べた。

 二つ目は「PDCAを回す」ということだ。計画から実行までのプロセスを畔柳会長は「仕切る、やりきる、ダメを押す」と表現する。システム開発では、「まず利用部門が要件を確定させなければならない」(畔柳会長)。このとき、ITプロフェッショナルは利用部門の要求を確定させるために行動する必要がある。「ITプロフェッショナルは、利用部門の要件があいまいな状態にもかかわらず引き受けるのでなく、利用部門に要件を確定させる責任がある」(同)。これが「仕切る」ということである。

 三つ目は「現場百回」である。これは開発現場に頻繁に出向き、担当者と会話を交わすことが重要という意味であり、リーダークラスのITプロフェッショナルに向けた言葉である。システム開発の現場では、リーダーがメンバーから「うまくいっています」と報告を受けていたにもかかわらず、ある日突然に問題が判明することが少なくない。

 このようなことを防ぐため、畔柳会長はシステム部門長を務めていたとき、1日1回は開発現場を歩き、現場の雰囲気を自らの目で確かめるようにしていたという。「2~3人が真剣に話し込んでいる姿を見たりすると、なんとなくおかしいのではないかということが雰囲気で分かる」(同)。何らかの問題に気付いたときは、「担当者を傷つけないように、関係チームを集めて打ち合わせをしたり増員の手を打ったりするなどの工夫をした」(同)。

 四つ目は「3世代管理」だ。これはITプロフェッショナルの育成と開発ノウハウの伝承に対する考え方である。ITプロフェッショナルを20代から30代前半までの「初年兵」、30代後半から40代前半の「中堅」、40代半ばからの「リーダー」の3世代に分けて、それぞれの立場でシステム開発を通じてITプロフェッショナルを育てていく。三菱東京UFJ銀行は以前からこのような方針で人材育成を続けてきており、これがDay2の際に役立ったという。

 「80年代の三次オンのときに新人を100人集めた。彼らが10年後の三菱銀・東京銀のシステム統合のときに中堅として活躍し、Day2ではリーダーとして現場をまとめた」(同)。今後は「Day2に参加した若手が先々の重要プロジェクトでリーダーとして活躍してくれることを期待している」(同)。

 五つ目は「夢と志」である。ITプロフェッショナルは夢と志をもって仕事に当ってほしいということだ。畔柳会長は日ごろから、ITプロフェッショナルに対して「システム開発は価値がある、夢のある仕事だ」と話しているという。「経営トップが『大変だが仕事なのでなんとかやってくれ』と言うだけでは、ITプロフェッショナルは夢と志が持てず、実力を発揮できない」。

 最後は、「技術革新の担い手の主役」というメッセージである。「人類の進化はさまざまな工夫を重ねてきた歴史だ。あらゆるものの自動化が進んでいる。自動化を実現しているのはソフトであり、そのソフトをつくっているITプロフェッショナルの方々の仕事は素晴らしいものだ」(畔柳会長)。

 畔柳会長は「ソフト開発は素晴らしい仕事である」と述べ、「Day2では銀行の土台(システム)を作ってもらったことに改めて御礼申し上げる」と締めくくった。