写真●日本仮想化技術の宮原徹氏(代表取締役社長兼CEO)
写真●日本仮想化技術の宮原徹氏(代表取締役社長兼CEO)
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 「仮想化には様々な利点があるが,銀の弾丸ではない。安易な導入は避けるべきだ」。2009年10月28日,東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2009」の基調講演で,日本仮想化技術の宮原徹氏(代表取締役社長兼CEO)はこのように述べ,仮想化の導入に当たっては細心の注意が必要だと強調した(写真)。「仮想化導入で失敗しないために今知っておきたい三つのポイント」と題したテーマで語ったものだ。

三つのポイントで脳を鍛える

 宮原氏は今回,仮想化技術を導入する際のポイントを三つに絞った。そのうえで,これらの実践こそが,仮想化時代のシステム開発に不可欠とし,ITエンジニアに必要な“仮想化脳”を鍛えると話した。

 仮想化導入の三つのポイントとは何か。宮原氏が最初に挙げたのは「仮想化技術のメリットとデメリットの把握」」である。宮原氏は導入コスト,運用コスト,管理コスト,拡張性,性能,耐障害性という6項目がメリット/デメリットの判断基準になると説明。そのうえで,物理サーバー,仮想化環境のラック型サーバーおよびブレードサーバーについての評価点を公表した。

 この結果,宮原氏が最も高い評価を付けたのがブレードサーバーによる仮想化である。「スケールメリットが大きいうえに,管理コストも下がりやすい。台数が増えれば増えるほどメリットが大きくなる」(宮原氏)。

 ただし,耐障害性については,障害個所を局所化しやすい物理サーバーに軍配が上がるという。「こうしたトレード・オフの関係を理解するためにも,六つの判断基準からメリット/デメリットを整理しておくことが大切だ」(宮原氏)。

要件定義では仮想化から一歩引く

 宮原氏が二つめのポイントとして挙げたのは「しっかりとした要件定義と適切な構成設計」である。仮想化では特に,目的をはっきりさせることが重要だと強調した。その理由として宮原氏は「仮想化の多くの目的はサーバー統合。この場合,多くの部署の意思決定者が関わるので,意見がぶつかりやすい」と明かす。プロジェクトで何をしたいのかを聞き出すには「仮想化からいったん離れること。一歩引いた経営的な視点で,現在の課題をヒアリングすることが大切だ」と指摘した。

 洗い出した経営課題は,次に仮想化の効果とひも付ける。例えば「リソースの有効活用」が課題だった場合,仮想化技術を導入して「何台のサーバーを何台に集約できるか。これにより管理コストはどれだけ減るか。また,電力使用量はどれだけ減って,CO2削減効果はどれぐらいか,などを定量的に示すことが大切」(宮原氏)。

 ただしサーバーの集約率が高まると,障害の切り分けが難しくなるので耐障害性が低下する。データベースのアクセスも集中してパフォーマンスにも影響が出やすい。そのため「要件定義の際には,サーバーやストレージの構成をどうするかという設計も入念に進める必要がある」(宮原氏)。

3台のPCさえあれば自分で試せる

 宮原氏が最後のポイントとして挙げたのは,「導入後のトラブルを未然に防ぐ事前検証」だ。仮想化導入には不安がつきもの。それを取り除くためには,事前に検証することが必要だと説明する。

 検証の際には「特にI/O(入出力)ポートがボトルネックになりやすいので注意を払いたい」と宮原氏。「トランザクションが大量に発生する,I/Oが多いといったシステムでは性能が出にくいので,仮想化導入では注意すべきだろう」(宮原氏)。

 検証に当たっては,まず無料の仮想化ソフトやミドルウエアを利用して,自分で試してみることが大切ともいう。宮原氏は「3台のPCさえあれば,フリーのソフトをインストールして仮想化技術のほとんどの機能を体感できる」と説明する。そして,自分で使ってみることが「“仮想化脳”を鍛えるうえで最も近道になる」と強調した。