写真1●ガートナージャパン リサーチ部門の山野井聡グループ・バイス・プレジデント
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写真2●ガートナージャパン リサーチ部門の堀内秀明バイス・プレジデント
写真2●ガートナージャパン リサーチ部門の堀内秀明バイス・プレジデント
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写真3●日経コンピュータの桔梗原富夫編集部長
写真3●日経コンピュータの桔梗原富夫編集部長
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 2009年10月28日,「ITpro EXPO 2009」のメインシアターにおいて,「『視界ゼロ』時代をITリーダーはどう乗り越えれば良いか」と題し,ガートナージャパン リサーチ部門の山野井聡グループ・バイス・プレジデント(写真1)と堀内秀明バイス・プレジデント(写真2)が,2010年のIT部門の動向や注目すべきソリューションについてトークを繰り広げた。モデレータは日経コンピュータの桔梗原富夫編集部長(写真3)が務めた。

 はじめに山野井氏が,世界のIT市場について概観した。まず2010年の地域別IT支出額の予測値を示した。それによると,世界全体で3.3%,アジア・太平洋地域で5.0%,北米で2.8%という伸び率で,今年の締め付けから来年は反転攻勢になる。これに対し,日本は-0.7%と前年よりも低下し,まだ厳しい状況にあるとした。

 このため,日本のIT投資が本格的に回復するのは2011年で,2010年はその過渡期になるとの見通しを示した。また,たとえ回復したとしても,2008年の「リーマン・ショック」以前と同じ状況には戻らず,企業の経営環境はまったく新しい景観になるとした。

 続いて同氏は,2010年のITリーダーの指針として,「四つの視座」を示した。それは(1)制御 or 自立,(2)社内 or 社外,(3)所有 or 共有,(4)複雑 or 単純――というもの。企業は自社のIT戦略に取り組む際に,四つの視座のそれぞれでどちらの立ち位置にするか選択することが重要だと述べた。

 2010年に企業の「攻め」につながる重要な六つの技術も紹介した。(1)BI(Business Intelligence),(2)仮想化,(3)ソーシャル・メディア,(4)パターン・ベースト・ストラテジ,(5)コンテキスト認識コンピューティング,(6)オペレーショナル・テクノロジ――である。

 特に(2)について同氏は,クラウドに対する期待が高すぎて実体が伴っていないきらいがあり,しばらくは要素技術の成熟を待つ必要があると述べ,その中でも特に重要なものが仮想化だと指摘した。

 2010年は,「守り」の部分も引き続き重要になると指摘した。これについても同氏は六つの項目を列挙した。(1)IT調達の厳格化,(2)IT支出の最適化,(3)情報の可視化・プロセスの効率化,(4)アプリケーション資産の棚卸し,(5)レガシーの近代化,(6)ITセキュリティの強化――である。

 このなかでも特に注意すべき点は,(4)アプリケーション資産の棚卸しだという。同社の調査によると,企業内でだれも使っていないアプリケーションが10%もあるところがあるという。そうしたアプリケーションに料金を支払っているのはもったいないので,ぜひ社内でのアプリケーション利用の実態を把握してほしいと締めくくった。

 続くQ&Aセッションでは,桔梗原編集部長がまず,2010年のIT投資の伸び率で日本だけがマイナスになっている理由を聞いた。これに対し,山野井氏は二つの理由があると答えた。一つは,2008年のIT投資の締め付けが予想以上に厳しかったことを挙げた。3月に予算が確定した時点で同社が企業に対して実施した調査によると,回答があった企業の50%がIT投資を削減し,さらに4分の1の企業は削減幅が20%以上にもなるという。もう一つの理由としては,日本のCIOは他国に比べ,IT投資に対して慎重ということがあるという。日本の全予算に対するIT投資額は米国の半分といわれており,そうした慎重な姿勢は今後も続くという。

 桔梗原編集部長は,企業のIT分野での「守り」のポイントについても尋ねた。山野井氏は,プレゼンテーションの中で説明した六つの項目のうち,特に「IT支出の最適化」と「アプリケーション資産の棚卸し」の2点が重要だとした。前者について同氏は,IT支出を下げても何とかやっていけると企業は実感したはずと指摘した。また後者について堀内氏は,企業はハードウエア,OS,コンパイラといった技術面についてはよく把握しているが,ユーザー側の責任分担はどうなっているのか,アプリケーションはどのように使われているのか,といったビジネス面の情報はつかんでいないという。こうしたビジネス面に気をつけて見るべきだとした。

 「パターン・ベースト・ストラテジ」とは何かという質問に対し堀内氏は,それは同社の造語で,過去の事象をいかに利用するかに主眼を置いた従来の手法に対し,需要やリスクといった将来に関する情報を何とかして得ようとする戦略だとした。この戦略でも過去の情報を使うことには違いはないが,企業の外にあるたくさんの事象を組み合わせることで,例えば「将来はこの製品が売れる」あるいは「売れなくなる」といった「きざし」を把握できるようになる。今後は,こうした戦略を企業全体のプロセスとしてどう使うのか考えてほしいと述べた。

 最後に桔梗原編集部長は,2010年の六つの重要技術に「クラウド・コンピューティング」が含まれていない理由を質問した。山野井氏はクラウドについて,技術が成熟していないのに期待だけが先行する「バブル現象」が起こっていると指摘した。今はバブルがはじける直前の状況であり,この2~3年のうちにユーザーが幻滅を感じ,クラウド・ベンダーが淘汰される時期が来ると予想した。その一方,こうした現象はどの技術にも起こり得ることで,要素技術である仮想化の成熟にはあと3年はかかるが,その後に本当のクラウドが来るとした。

 なお,今回の内容の詳細は,同社が2009年11月11~13日に開催する「Gartner Symposium/ITxpo2009」で紹介するという。

■変更履歴
記事タイトルを修正しました。 [2009/10/29 14:40]