Linus Torvalds氏
Linus Torvalds氏
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 The Linux Foundationは2009年10月21日から23日にかけての3日間,第1回となる日本での国際Linux会議「Japan Linux Symposium」を開催した。Linus Torvalds氏をはじめとする数十名のLinuxカーネル開発者が来日。日本と世界のLinux開発者が講演や交流を行った。

 The Linux FoundationはLinus Torvalds氏がフェローとして所属する,Linuxの普及や標準化を行っている団体。Japan Linux SymposiumはLinuxに関する国際技術会議で,今回が第一回となる。23日の基調講演は,独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)および,日本のIT産業界と政府によるオープンソース・ソフトウエア(OSS)推進団体である日本OSS推進フォーラムと共同で開催された。

「活発な開発と巨大な経済的価値」,Zemlin氏

Japan Linux Symposiumの基調講演
Japan Linux Symposiumの基調講演
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Linus Torvalds氏(左)とJim Zemlin氏(右)
Linus Torvalds氏(左)とJim Zemlin氏(右)
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The Linux Foundation エグゼクティブ・ディレクター Jim Zemlin氏
The Linux Foundation エグゼクティブ・ディレクター Jim Zemlin氏
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 Linus Torvalds氏の基調講演は「Linuxその歴史,開発の仕組み,オープン・イノベーションにおける意味」と題し,The Linux Foundationのエグゼクティブ・ディレクターであるJim Zemlin氏との対話形式で進められた。

 最初に登場したZemlin氏は「Linuxにまつわるいくつかの数字」を紹介した。「270万行」。これは,最近1年間での増加したLinuxカーネル・ソースコードの行数だ。「1万0923行」。これは,Linuxカーネルに1日に追加されるソースコードの行数。「5547行」。これは,Linuxカーネルから1日に削除されるコードの行数。「1000兆ドル」。これは,Linuxサーバーをメインに利用しているシカゴ・マーカンタイル取引所で行われる,1年間の取引金額だ(関連記事)。「108億ドル」。これは,Linuxを1から作り直した場合に必要なコストとして,The Linux Foundationが推定した金額(関連記事)。「500億ドル以上」。これは,ハードウエア,サービスなどを含めたLinuxの市場規模だ。「0ドル」。これは,Linuxカーネルを利用するためのライセンス料だ。

 Zemlin氏はこのように,Linuxの開発が現在もダイナミックに行われていること,Linuxが巨大な経済的価値を生み出していることを具体的な数字をあげて強調。そして最後の数字として「1」をスクリーンに映し出した。「これが18年前,Linuxの開発が最初に始まった時の開発者の数だ」,Zemlin氏はそう語り,その“最初の1人”であるTorvalds氏を壇上に招いた。

 「Linuxの開発を始めた時,今のように世界中で使われるようになると思っていたか」というZemlin氏の問いに,Torvalds氏は「Linuxは自分で使うために作ったもので,予想していなかった」と答える。

 巨大になったLinuxカーネル開発プロジェクトをどうコントロールしているのか。「権限を分散してできる限り怠けられるようにしている」というのがTorvalds氏の答えだ。「大きくなってくるに従って開発のプロセスやルールは変えなければならない。Linuxでも,何度かプロセスを変えてきた」(Torvalds氏)。

「コマーシャルとOSSは対立しない」,Torvalds氏

 今後,どのようなイノベーションが起きるだろうか,という問いに対しては「イノベーションは予期しないところから起こっていく。それを起こすのは僕ではない誰かだろうが,Linuxはそのイノベーションを支えるのではないか」と語った。

 Linuxが成功した理由は何か。「複数の要因があって,ひとつは適切な時に適切な場所で始めたこと。僕自身は始めた当時には大きなビジョン持っていなかったが,やがて多くの人たちが参加して大きな存在になった。新しいアイデアを受け入れ,異なる文化に対してオープンであることが大切だと思う」とTorvalds氏は言う。

 オープンソースというモデルについて,Torvalds氏は「コマーシャルとOSSの間に対立はない」と言い切る。コマーシャルな企業とオープンソースは互いに協力することで価値を生み出せるという。

 Torvalds氏はLinuxを個人的な趣味として始めた。「今でも,Linuxは趣味」とTorvalds氏は言う。「しかし,Linuxは原子力発電所でも使われており,役割は変化した」とZemlin氏。「様々なところで使われていることはうれしいが,われわれが直接制御しているわけではなく,様々な人々が関与している」(Torvalds氏)。しかし「かつては,一度すべてを破綻させて,半年かけて直せばいいという状況もあった。もうそういったことはできない。われわれは開発のプロセスを変化させてきた」と述べた。

 またLinuxは現在,日本製のほとんどのデジタルTVや,NECやパナソニックモバイルの携帯電話など組み込み機器に広く搭載されるようになっている。「(Japan Linux Symposium技術セッションの会場である)秋葉原には何十ものLinuxを搭載したデバイスがあった」(Zemlin氏)。Torvalds氏は「これからは組み込み機器のエンジニアとも,コミュニケーションを深めていきたい」と語った。

 「アジアの,あるいは世界のどこかにLinusになりたい若者にアドバイスを」と求められたTorvalds氏は「自分のニッチを見つけよう。ベストをつくすためには,10年間,毎日何時間も続けなくてはならない。自分が打ち込める,ワクワクできるものを見つけてほしい」と聴衆に語りかけた。