写真●手前から西田氏、三浦氏、森本氏、勝屋氏
写真●手前から西田氏、三浦氏、森本氏、勝屋氏
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 一般財団法人塩尻市振興公社は2009年10月16日、「ITのプロフェッショナルが語るこれからのまちづくりと地域企業のIT戦略」と題した無料セミナーを開催した。IBMやグーグルなど複数の大手IT企業の有志が講演し、ITで“個”が輝く仕組みを作ることで地域活性化を図れると力説した。

 塩尻市振興公社の米窪健一朗理事長は「地方都市は厳しい現実にさらされているが、人材交流の環境を作ることなどで創造的な人間を育てて町に活力を取り戻したい」とセミナー開催の狙いを語った。セミナー開催後は講演者を加えた交流会も併せて実施した。

70歳が「MSがヤフー買収らしい」とIT談義

 基調講演では総務省地域情報化アドバイザーの森本登志男氏が「ICTを活用したまちづくりの成功事例とその秘訣」と題して登壇した。

 徳島県上勝町は過疎と高齢化に悩む山間地。人口2000人で高齢化率49.2%という状況の中、葉っぱを料理のつまものとして料亭などに販売する彩事業でITを活用し、活力を取り戻しつつある。

 労働力の主体は高齢者。パソコンを使いこなしてインターネット通販を行う70歳の高齢者が「マイクロソフトはヤフーを買収しようとしているようだが」などのIT談議をすることも珍しいことではないという。インターネットのインフラも整備され、町人の間でブログブームになったこともあり、「後継者に帰ってきてもらうための町にする」という当初の目的を果たしつつあるという。今では上勝町に40人くらいが移り住んできており、20人の移住募集に400人が応募してくるほど注目されるようになってきた。

 森本氏は「外部環境の変化は受け入れざるをえない。地域の持つ資源は、突き詰めて考えていけば必ず見つけられる。一番大きな変化を起こすことができるのは人的な行動であり人の和。ここにITを使うと様々なことができるので、個の輝きを取り戻すことができる。最も重要なことは個を輝かせる仕組み作り」とした。

 その後はIBM Venture Capital Group日本担当パートナーの勝屋久氏と朝日インタラクティブ編集統括の西田隆一氏、グーグルのアカウントストラテジストである三浦豊史氏も交えて「塩尻のまちづくりとビジネスに、ITをどのように活用するべきか?」と題してパネルディスカッションを実施した。モデレーターは勝屋氏が務めた。

 西田氏は「ITを低価格で誰もが使えるようになったチープ革命、ツィッターなど誰もが簡単にメディアを持って、様々な人たちとコミュニケーションできるようになったソーシャルサービスの隆盛、そしてモバイル機器やサービスの進化がIT業界の三大トレンド」と主張した。さらに「こうしたトレンドを意識した上で、消費者が気づく可能性のある手法で多角的にアプローチすることが必要だ」とした。

 三浦氏は地方自治体がYouTubeを活用して事例を紹介した。その上で、「福岡県の事例では、YouTubeを活用することでホームページのアクセス数が二十数倍に跳ね上がった。山梨県のお祭りでは、米ABCがYouTubeを見たとして取材に来るなど、世界の人たちに向けて安く、しかも簡単に認知度を高めることも可能になった」と指摘した。

 森本氏は会場の質問に対話型で応じ、事業開始の目的や自社の強みをいかに掘り下げて考え抜くかの具体的な実例を披露した。勝屋氏は「対面でコミュニケーションすることが最も重要」と、あくまでITは補完的な存在であるとの認識が欠かせないとした。