「ITU TELECOM WORLD 2009」の公開討論の一つ「モバイル・サービスと経済成長」には,慶応義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏が“モバイルWebサービスの生みの親”との紹介で登壇した。

 同セッションでは,主に発展途上国向けモバイル・サービスの事業機会の可能性が議論された。夏野氏は「モバイル・サービスが経済成長に貢献するかと問われれば,もちろんイエスだ」と即答。その根拠として,日本では過去10年間で通信事業者のデータ通信料収入やコンテンツ産業が,ほとんどゼロから急拡大したことを挙げた。

 夏野氏は,こうした収益を直接的な成果とすると,電子メールを使ったコミュニケーションの効率化や,携帯電話の非接触ICカード機能を活用したマーケティング活動などは間接的な効果だとする。電子メールの例では,日本ではほとんどの携帯電話が電子メール・アカウントを持ち,個人・法人レベルのコミュニケーションが大きく効率化され,なおかつ添付ファイルや「デコメ」などを使うことでコミュニケーションが楽しくなっていることを紹介した。

 発展途上国で新しいモバイル・サービスを立ち上げる時のアドバイスとしては,標準化とイノベーションのバランスを挙げた。新しいサービスを始めようとするときに標準化を重視し過ぎると,イノベーションを阻害するという主張である。標準化は下位レイヤーでは重視すべきだが,アプリケーション層での標準化が過ぎると,サービス開発者のモチベーションを阻害しかねないと力説した。