写真1●ITU TELECOMのフォーラムに登壇したKDDIの小野寺正社長兼会長
写真1●ITU TELECOMのフォーラムに登壇したKDDIの小野寺正社長兼会長
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写真2●通信事業者とメーカーのキーパーソンが集って環境変化への対応について議論した
写真2●通信事業者とメーカーのキーパーソンが集って環境変化への対応について議論した
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 「固定から携帯へ比重が移り,音声ARPUが下がって,付加価値サービスの重要性が増す」---通信事業者は予測が難しい環境変化に直面している。機器ベンダーにとっても単なる機器売りから,事業者向けのサービスに力点が移り始めた。このような激しい変化の中,通信関連の企業はどのような舵取りをするのか。スイスのジュネーブで開催中のITU TELECOM WORLD 2009にて2009年10月8日,こうしたテーマを議論するフォーラムが開催された。参加したKDDIの小野寺正社長兼会長(写真1),スイスコムのカーステン・シュローターCEO,テレコム・マレーシアのダト・ザムザムザイラニCEO,マイクロソフトの技術政策戦略部門を担当するアノープ・グプタ・バイス・プレジデント,中国ZTEのシャン・ツァイ・バイス・プレジデントの各氏が,通信事業者あるいはベンダーの立場から議論した(写真2)。

各社が自国に合わせた投資の最適化を紹介

 KDDIの小野寺社長は,ユーザーの環境変化に対応した取り組みとして,同社が進めているFMBC(fixed mobile broadcastiong convergence)戦略を紹介。ユーザーが幅広いコンテンツをどこにいても楽しめるように,固定もモバイルも映像もシームレスに統合するという取り組みについて語った。さらにICT企業の役割として,ユーザーがICTに気づくことなくサービスをいつどこにでも活用できる「アンビエント・インテリジェンス」を目指していることも説明した。

 スイスコムのシュローターCEOは,経済危機やIP化の進展といった環境の変化に対して,「我々のネットワーク上で成長の可能性はどこにあるのか。これまでと全く違う戦略が必要になる」と語る。スイスコムは,IPTVなどのリッチメディアの分野や,ストレージ・サービス,テレビや携帯やパソコンなど様々なデバイスをシームレスに結ぶ,コミュニケーション・クライアントの分野に力を入れていることを紹介した。

 マイクロソフトのグプタ・バイス・プレジデントは,変化の激しいソフトウエア業界で競争力を持つために,R&Dの分野の投資の重要性を説く。マイクロソフトでは毎年95億ドルもの投資をしているという。

 テレコム・マレーシアのダトCEOは,同社が2008年4月に携帯電話事業を分社化し,現在は固定電話とブロードバンド事業に特化して取り組んでいることを説明。「COOL」という名の業務改善と,政府とのパートナーシップによって,オールIPネットワークへの移行に今後10年間で24億リンギットの公共投資を獲得している事実を紹介した。

 ZTEのツァイ・バイス・プレジデントは,機器の製品サイクルが年々短くなっていると解説。「ユーザーは最新機器を安く手に入れたがっている。そのためにはイノベーションを続けるしかない」と強調した。ZTEは経済危機に見舞われたにもかかわらず,40%の成長を遂げているという。

モバイルWiMAXはデジタル・デバイド解消に最適

 後半のディスカッションでは,予測の難しい環境の中で企業はどのような投資判断をしているのかということが話題にあがった。この話題についてKDDIの小野寺社長は,「R&Dと次のネットワーク・アーキテクチャへの投資の見極めが大きな課題。その中でKDDIは,モバイルWiMAXとLTEの両方に投資することを決めた。LTEは携帯電話を拡張した技術であり,モバイルWiMAXはWi-Fiを拡張した技術。将来はある程度,競合は起きるかもしれないが,基本的には利用シーンは異なる」と説明。技術の特性を見た上での両者への投資である点を強調した。

 さらに小野寺社長はモバイルWiMAXについて,「世界が直面する問題の一つであるデジタル・デバイドを解消するための有力な手段」と語る。途上国ではインターネットはおろか電話も来ていない現状がある。「モバイルWiMAXはレガシーの電話網に依存せず,電話番号も必要ない。途上国に向いている」(同)。KDDIでは,世界のデジタルデバイド解消のために,過去15年間にわたり,途上国から技術者を招きトレーニングするような活動を続けたり,ITUを介してこれらの国へパソコンを提供する活動を進めているという。