左から本田技研工業マーケティング戦略ブロック主幹の渡辺春樹氏、日本たばこ産業コミュニケーション副責任者の田中泰行氏、日本コカ・コーラインターラクティブマーケティング統括部長の江端浩人氏、花王Web作成部部長の石井龍夫氏
左から本田技研工業マーケティング戦略ブロック主幹の渡辺春樹氏、日本たばこ産業コミュニケーション副責任者の田中泰行氏、日本コカ・コーラインターラクティブマーケティング統括部長の江端浩人氏、花王Web作成部部長の石井龍夫氏
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 日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(東京都中央区)は2009年9月29日、東京・明治記念館で「デジタルマーケティングの今後」をテーマにしたイベント「第20回WABフォーラム」を開催した。

 第1部のパネルディスカッションでは、本田技研工業マーケティング戦略ブロック主幹の渡辺春樹氏、日本たばこ産業(JT)コミュニケーション副責任者の田中泰行氏、日本コカ・コーラのインターラクティブマーケティング統括部長の江端浩人氏、花王Web作成部部長の石井龍夫氏が登壇、宣伝会議の取締役編集室長の田中里沙氏がモデレーターを務めた。「広告主が本気で語る2010年ネットと広告の行方」をテーマに、自社サイトや広告媒体、ソーシャルメディアなどの役割などについて意見を交わした。

メディアを使い分けたコミュニケーションが重要に

 冒頭、渡辺氏は今後のトレンドを示すキーワードとして「トリプルメディア、トリプルスクリーン」を挙げた。トリプルメディアとは、(1)広告メディア(マスメディアなど)、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログ、「Twitter」などのマイクロブログサービスといった(2)ソーシャルメディア、そして自社サイトを中心とした(3)自社メディアの3つ。従来、広告メディアとソーシャルメディアの2つが大きな存在だったが、「自社メディアが重要な位置付けになってきている」(渡辺氏)と説明した。

 一方、トリプルスクリーンは、パソコン、ケータイ、そして今後普及が進む大型テレビの3つ。それぞれ液晶の大きさや、利用する際の距離が異なる。それにより利用者は情報の受け取り方が異なるという。渡辺氏は、「3つのメディアと3つのスクリーンの掛け合わせを考えていかなければならない」と、各メディアとデバイスの特性を理解して組み合わせていくことが重要になることを示した。

 渡辺氏の意見を受けて、モデレーターの田中氏は花王の石井氏に、メディアをどのようなバランスで活用しているかを尋ねた。

 石井氏は、「ブランドによって課題が異なる。それぞれの課題に応じてメディアの掛け合わせを考えていく必要がある」と答えた。ただ、企業から一方的に情報を伝えるやり方ではなく、お客様とのコミュニケーションを考えていく必要があるという。例えば、テレビCMなどで製品を知った人が、花王のWebサイトで製品について調べる。その後で、本当に自分に合っているかを調べるために、CGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)サイトやブログを訪れる。そのときに、自分と同じような髪質や肌質の人が製品をほめていれば購入につながると説明。お客様のステージに合わせて、メディアを適正に使い分ける必要があると意見を述べた。

 日本コカ・コーラの江端氏も、クロスメディアに力を入れて取り組んでいるという。同社ではどういったメディアの組み合わせをすると、ブランドイメージへ影響を及ぼすか、購入意識が高まるかを調べている。その結果、「ネットと別のメディアを掛け合わせることで効果が高まる結果が出ている」(江端氏)と、クロスメディアを展開する上で、ネットは欠かせない存在になっていると説明した。

 とくに、飲料という商品特性上、ケータイを強く意識しているという。商品情報について知りたくなったときに、すぐにアクセスできる環境を用意する必要があると説明。缶コーヒーを購入して、そこに張られたキャンペーンのシールからケータイサイトを訪れることも多い。商品を手に取ったとき、広告を見たとき、あらゆるルートを想定して展開していると述べた。

 一方、法による規制などでテレビCMや雑誌での広告が制限されるJTでは、「たばこを吸う人だけにプロモーションをすることを求められている」(JT田中氏)と、同社の現状を説明した。そうした、広告宣伝の手法が限られる中、2つの有効手段にたどり着いたという。1つが、たばこを買いに来た人にキャンペーンなどを告知するといった店頭での訴求。もう1つは喫煙者に直接情報を届けるDMだ。JTが保有する喫煙者のデータベースは、1000万人以上に上るという。同社では日本の喫煙者は約2600万人とみており、そのうち3分の1以上の人に直接情報を届けられる強みを持つ。従来は、紙のDMを送付していたが、現在はケータイメールによるコミュニケーションに力を注いでいることを明かした。

消費者やメディアが変わる中、企業もマーケティング手法の変革が求められている

 続いて、モデレーターの田中氏が登壇者にネットにかける予算は増えているのかと問うと、日本コカ・コーラの江端氏は、「予算は増えているが、制作するサイト数やPV(ページビュー)の伸びに比べれば遥かに低い率」という。その理由を「コストに対する効率化に力を注いでいるため」と答えた。ただ、テレビ番組などと連携してWebサイトに誘導する場合は、Web単体の予算に含まれないと付け加えた。

 ホンダの渡辺氏も効率化に注力しているという。渡辺氏は、「自社メディアを強くすれば、いろいろなメディアの効果を測れる」という。同社では、費用対効果を考え、雑誌や新聞への広告出稿を減らして、効果が見えやすいネットなどの予算を増やしている。「広告の半分は役に立っていないという有名な言葉があるが、今は役に立つ半分が分かる」と、ネットと組み合わせることですべての広告効果の掌握は可能であると主張した。

 最後に渡辺氏は、「まだまだ、テレビ中心のマスは強い。また、首都圏であれば交通広告は効率が高い」と状況に合わせて、展開するメディアの見極めが最も重要であると意見を述べた。消費者の動向やメディアが変わっていく中で、企業は合理的に変化していくことが求められていると締めくくった。