写真●米Adobe Systems Scene7プロダクトマーケティング担当シニアディレクターのシーラ・ダンクレン氏
写真●米Adobe Systems Scene7プロダクトマーケティング担当シニアディレクターのシーラ・ダンクレン氏
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 アドビシステムズは2009年9月17日,日本を含むアジア太平洋地域向けにASPサービス「Adobe Scene7」の提供を開始した。Scene7はユーザーがアップロードした画像を,ズーム,サイズ変更,回転といったインタラクティブな操作が可能なコンテンツに自動変換して提供するサービス。eコマース・サイトの商品紹介ページなどでの利用を想定している。

 Scene7を利用すれば,素材となる画像があれば,特別なスキルが無くても直感的な操作でインタラクティブ・コンテンツを生成可能だという。「服の縫い目まで確認できるほど画像をズームできるコンテンツを,特別な開発をせずに実現できる。開発コストの圧縮につながるだけでなく,商品の返品率を下げたり,安心して購入できるといった顧客満足度を向上する要因になる」(米Adobe Systems Scene7プロダクトマーケティング担当シニアディレクターのシーラ・ダンクレン氏,写真)。また,電子メールやプリント・メディアといった複数チャネルへの画像の展開もサポートする。

 Scene7は2007年にアドビが買収したソリューションで,買収後はアドビがデータセンターの拡充などインフラの増強を行ってきた。すでに米国を中心にeコマース・サイトを中心とした数百社のパートナ企業がいる。「本サービスは1日に10億から20億点もの画像を提供し,180テラバイトのコンテンツを管理する規模で運営している」(ダンクレン氏)と説明。アドビ社がSaaS事業を世界規模で運営できる技術力を持っている点を強調した。

 今回のアジア太平洋地域への事業拡大で日本,中国,インドの市場をカバーする計画で,日本国内の初年度の売上げは3億円を見込む。日本ではすでに,女性向けに衣料品販売事業を行うピーチ・ジョンがオンラインショップで採用したほか,ISAOが国内初の一次販売店としてScene7を活用したソリューションの販売を開始している。

パッケージ製品とは競合しない

 Scene7はオンライン・カタログなどのオーサリング作業までまかなえる制作ツールとしての機能を備えているという。同社はすでにPhotoshop.comやAcrobat.comで,制作ツールの機能をサービスという形で提供しているが,いずれも現状ではサービス使用料は無料。アドビが有償で制作機能を提供するのはScene7が初めてであり,ツールの機能をASPサービスで提供するビジネスに本腰を入れ始めたと見ることもできる。

 Scene7は同社の主力製品であるパッケージ製品「Creative Suite」と競合するようにも思えるが,この点についてダンクレン氏は「Scene7はあくまでもデスクトップ上で作ったデザインを,サービスを通じてグローバルに展開する手伝いをするもの」と説明。Creative Suiteのようなパッケージ型のソフトウエア販売事業が縮小傾向にあると考えているわけではないと強調した。

 とはいえ,Creative Suiteの主なユーザーである制作会社に影響がないわけではない。制作工程までASPサービスに組み込まれているScene7を活用したワークフローでは,デスクトップ・ツールを使ったデザインワークが必要な場面は少なくなる。つまり,制作会社がインタラクティブ・コンテンツの作成を受注する機会が減ることが予想される。その場合,Scene7が対象とするような中規模eコマース・サイト向けにインタラクティブ・コンテンツやWebページのビジュアル・パーツの作成を請け負っている業者は,別の強みを見いだす必要があるだろう。