写真1●インテル アプリケーション&サービス統括部の酒本幹夫氏(写真:皆木優子)
写真1●インテル アプリケーション&サービス統括部の酒本幹夫氏(写真:皆木優子)
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写真2●「Moblin v2ベータ」のデスクトップ画面
写真2●「Moblin v2ベータ」のデスクトップ画面
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 ネットブックより小さく,携帯電話よりは大きい「Mobile Internet Device(MID)」。同セグメントをターゲットとして米Intelが開発したLinuxディストリビューションの「Moblin」は,今ではIntelの手を離れたOSSプロジェクトとして開発が進んでいる。2009年9月16日の「XDev2009」で講演したインテル アプリケーション&サービス統括部の酒本幹夫氏(写真1)は,「Twitter」などのソーシャル・サービスを統合したデスクトップ画面などのデモを交えながら,Moblinの現況を語った。

 Moblinは,米Intelが2007年に同社が開発したモバイル端末向けLinuxディストリビューションである。「デスクトップOSとして完成しつつあるLinuxに,小さい画面で使いやすくするユーザー・インタフェースの改善とバッテリー駆動時間の延長を図るのが目的」と酒本氏は話す。

 想定するプラットフォームは,同社の組み込み向けx86プロセッサのAtomを用いたMID。既に米Wind River Systems(Intelが2009年6月に買収)やミラクル・リナックス(Asianux Mobile Netbook Edition)による製品が市場に出回っている。2009年4月からはIntelの手を離れ,Linux Foundation管理下のOSSプロジェクトとして開発が進んでいる。

 強みは「組み込みLinuxではなくPC Linuxがベースであるため,米AdobeのAIRやFlashなどが動作する」こと。x86の膨大なソフトウエア資産や開発ツール,およびノウハウを共用できるため,開発費を抑えられるという。

 酒本氏はMoblinの特徴として,(1)省電力機構を改善したLinuxカーネル,(2)スマートフォン向けの電話機能やWiMAX制御用のミドルウエア,(3)ユーザー・インタフェース(UI)開発用のフレームワークの大きく3点を挙げた。Linuxカーネルには「タイマー割り込みをまとめて処理するティックレス・アイドルを実装」するなど省電力用パッチを開発。ミドルウエアでは,複数のネットワーク・インタフェースを管理する機能を「フルスクラッチで書き直した」。UIについては,3次元グラフィックスAPIの「OpenGL」のプログラミングを省力化するライブラリ「Clutter」を用意。「動画を張り付けたオブジェクトをページをめくるように動かすようなUIを簡単に開発できる」とする。

 開発ツールとしては「GUI版を1週間前にリリースしたばかり」(酒本氏)の起動イメージ作成ソフト「Moblin Image Creator 2」や省電力設計支援ツールの「PowerTOP」を紹介。Moblin Image Creator 2は,Intel製クロス・コンパイラやデバッガ,コード最適化ツールの「VTune」などと「統合して使用することが既に可能」という。

 また酒本氏は,Moblinの方向性を大きく左右するAtomプロセッサのロードマップに言及。「2009年末にグラフィックス統合型の『Moorestown』プラットフォームが登場し,基板の小型化や省電力化でスマートフォンでの採用が可能になってくる」。2011年には製造プロセス・ルールを45nmから32nmに微細化し,クレジットカード・サイズを切る大きさのデバイスに搭載可能になるという。

 講演の最後に酒本氏は,実際にUSBメモリーからMoblinを起動してみせ,Clutterによる3次元UIを活用したファイル・マネージャやデスクトップに「Last.fm」やTwitterといったソーシャル・サービスのコンテンツを表示する機能,WiMAX対応のネットワーク接続マネージャなどをデモ(写真2)。「SSSE3(Supplemental Streaming SIMD Extensions 3)対応CPUでグラフィックス統合型のチップセットなら基本的にサポートしている。後ほどダウンロードして試してみてほしい」と来場者に呼びかけて講演を締めくくった。

■変更履歴
6段落目で開発環境の「統合を予定」としていましたが,「既に可能」の誤りです。また8段落目の「SSE3」は「SSSE3」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2009/09/17 18:25]