写真●早稲田大学大学院情報生産システム研究科の丸山不二夫客員教授(撮影:皆木優子)
写真●早稲田大学大学院情報生産システム研究科の丸山不二夫客員教授(撮影:皆木優子)
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 「日本はクラウドコンピューティング分野で、世界の先頭グループを走っている。もっと自信と希望を持とう。そして、クラウドを“使おう”ではなく“作ろう”という気概を持ってスキルを磨こう」。早稲田大学大学院の丸山不二夫客員教授(写真)は2009年9月16日、開発者向けイベント「XDev2009」の基調講演で、こう強調した。

 丸山教授は講演の中で、クラウドコンピューティングにかかわる技術スキルを磨くための、三つのポイントを示した。

 一つは「企業向けのクラウド(エンタープライズ・クラウド)と一般消費者向けのクラウド(インターネット・クラウド)を別の物として考えないこと」だ。「大量のデータを管理・処理する基本技術は両者とも同じ。企業向けではないからと、TwitterやFacebookといった一般消費者向けサービスを無視してはいけない。様々なサービスを実際に使ってみて、そのサービスが生まれた背景や技術を知ることが大切」と続ける。

 もう一つが「クラウドコンピューティングの原典(古典)として、米グーグルが開発・採用している技術をしっかりと学ぶこと」である。例えば、分散ファイルシステムの「Google File System(GFS)」や、キー・バリュー型データストアの「BigTable」、並列プログラミングモデルの「MapReduce」、プログラム言語の「Sawzall」などだ。「クラウドコンピューティングを語る上での基礎の基礎。グーグルのサービスを知るのではなく、大規模・大容量のデータを効率的に管理・処理するための仕組みを学んでほしい」(同)。

 ただし、米グーグルは中核技術にかかわる情報を、あまり公表していない。論文も少ない。この隙間を埋める方法として丸山教授は、マイクロソフトのクラウド基盤「Windows Azure」を教材として活用することを薦める。「米グーグルなどに比べると、公表している技術情報が多い。しかも、システムを作りながら学べる。企業システムとして採用するかどうかの議論は別だが、実際に使ってみることで、クラウドコンピューティングのスキルを磨けるはずだ」と説明する。

 最後のポイントは、「新しいビジネスを創造しようという意識を持つこと」だ。「クラウドコンピューティングの先進企業は、自らビジネスを創造し拡大するために独創的な技術を生んできた。そこに技術があったから、ビジネスを始めたわけではない」と丸山教授は言う。「ビジネスを創造しようと思えば、おのずとクラウドを“使う”ではなく“作る”という姿勢に変わる。さらに、既存技術のスキルを磨くだけでなく、新しいクラウド技術を生み出すきっかけにもなる」(同)。

 「日本はブロードバンド回線やデータセンターなどのインフラが整っている。インターネットを活用している人口の比率も高い。さらに、クラウド分野のスキルを磨いている開発者も多い。こんな国は米国と日本くらいだ。この環境を生かさない手はない。クラウドコンピューティングを“使えればいい”などと思わず、“作ってやる”という気概を持ってスキルを磨こう」。丸山教授は来場者にエールを送って、講演を締めくくった。