「プログラミングは楽しい。この楽しさを役立てたい」---2009年9月15日,ソフトウエア開発者向けイベント「XDev2009」で「ITpro Challenge! 2009 Light」と題するセッションが行われた。サイボウズ・ラボの竹迫良範氏と,永和システムマネジメントの角谷信太郎氏が講演,司会は小飼弾氏が務めた。

「全体最適を意識して選択しよう」,竹迫氏

サイボウズ・ラボ 竹迫良範氏
サイボウズ・ラボ 竹迫良範氏
(撮影:皆木優子)
[画像のクリックで拡大表示]

 竹迫良範氏は「プログラマー最適化問題」と題して講演した。竹迫氏は,PerlコミュニティShibuya.pmのリーダーとして知られる技術者で,Microsoft MVP Award 2008(Developer Security)も受賞している。

 竹迫氏は,記号だけでできたテキスト・ファイルを示し「これはどの言語で書かれたプログラムでしょう」と聴衆に問うた。答えは「Perlプログラムでもあり,Rubyプログラムでもあり,Javascriptでもあり,アセンブラでもある」。コメントを示す記号を使ってそれぞれの言語のプログラムを混載して記述してある。竹迫氏は,このように終始軽妙なユーモアを交えながら,選択の難しさと大切さについて語った。

 ITの発達は,情報量を爆発的に増大させ,選択肢も劇的に増加させた。結果として,最適な選択を行うことは難しくなっている。

 量的な変化があるしきい値を越えると質的な変化となる。コンピュータの計算パワーとデータの増大で,賢いアルゴリズムでなくとも,総当たり的な探索で答えが得られるようになってきた。人がレコメンド・エンジンの推薦に従って行動する場面が増えてくる。

 映画「マトリックス」のように,仮想は現実に,現実は仮想に近付きつつある。Googleストリートビューのように,現実はデータ化されていく。コンピュータがTwitterなどに書き込むボットは進化して人間の書き込みと判別しがたくなってきている。匿名掲示板の書き込みは定型化されたネット用語で埋め尽くされている。

 このような状況の中で最適な選択を行うには,目の前のことだけにとらわれず,全体最適を意識しよう---竹迫氏はユーモアに包んだメッセージを聴衆に送った。

「3冊の本で見えた“光”」,角谷氏

永和システムマネジメント 角谷信太郎氏
永和システムマネジメント 角谷信太郎氏
[画像のクリックで拡大表示]

 続いて角谷信太郎氏が講演した。角谷氏はRubyKaigiの運営委員長,「JavaからRubyへ」(ブルース・テイト著),「アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~」(マイク・コーン著)の翻訳などの活躍で知られる。「ITpro Challenge!はすごい人が講演してきた。自分はすごい人ではないけど,できることはたくさんあるという話をしたい」(角谷氏)。

 「Do You See the Light?」---これが,角谷氏の講演の題名である。映画「ブルースブラザーズ」で,牧師に扮したR&Bシンガー,ジェームス・ブラウンが問いかけた言葉だ。「光を見たか?」---生まれ育った孤児院を借金から救う方法に悩んでいた,主人公のジョン・ベルーシのもとに,空から一条の光が差し込む。そうだ,バンドを再結成して,コンサートの収入で借金を返せばいい。「光が見えた!」,ベルーシは叫ぶ。

 システム開発企業に就職していたものの「仕事をなめていた」という角谷氏が見た“光”は,3冊の本だった。「オブジェクト指向スクリプト言語Ruby」(まつもとゆきひろ,石塚圭樹著),「XPエクストリーム・プログラミング入門」(ケント・ベック著),「達人プログラマー」(アンドリュー・ハント, デビッド・トーマス著)という,プログラミングの楽しさを伝える名著。「プログラミングは楽しい。この楽しさを役立てたい。自分の仕事に誇りを持ちたい」。そう考えた角谷氏は,エクストリーム・プログラミングを日本で推進していた平鍋健児氏がいる永和システムマネジメントの門を叩く。そしてイベントでの発表,「JavaからRubyへ」(ブルース・テイト著)などの書籍翻訳,RubyKaigiの運営といった活動を行った。

 角谷氏にも「一度見逃した光があった」という。見逃して学んだことは「独りじゃ生きていけないこと。人とかかわること。人を信じること。我慢しすぎないこと」だった。「そうしないと,自分が大事だと思うことを守れない」(角谷氏)。

自分の“光”を見つけよう

小飼弾氏
小飼弾氏
[画像のクリックで拡大表示]

 「どうせ変わらないと思っていれば,世界は変わらない。でも,ちょっと話をしてみると物事が進んだり,一本メールを書いてみると状況が変わることはよくある。自分の光を見つけてほしい」。角谷氏は講演を結んだ。

 「竹迫さんにとっての“光”は何でしたか?」。会場からの質問に,竹迫氏は軽量プログラミング言語のイベント「Lightweight Language Day & Night(LLDN)」で初めてライトニング・トークをさせてもらったこと,と答えた。「ずっと,LLDNで拾っていただいた恩返しをしている」(竹迫氏)。

 「会場の皆さんにも光がありますように」。司会の小飼弾氏のこの言葉で「ITpro Challenge! 2009 Light」は幕を閉じた。