写真●NTTデータ経営研究所の富永新エグゼクティブスペシャリスト(撮影:皆木優子)
写真●NTTデータ経営研究所の富永新エグゼクティブスペシャリスト(撮影:皆木優子)
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 「クラウドコンピューティングを利用すると、システムを自社で所有する必要はなくなるが、一方で自社の顧客や社内の利用部門に業務サービスを提供する責任は社内に残る。当たり前ではあるが、このことを改めて肝に銘じるべきだ」。NTTデータ経営研究所の富永新エグゼクティブスペシャリスト(写真)は2009年9月15日、開発者向けイベント「XDev2009」の基調講演に登壇し、こう述べた。

 かつて日本銀行で金融機関のシステム考査を担当していた富永氏は、「クラウドコンピューティングに限った話ではないが、システムを外部に委託すると、システムを管理する責任があいまいになってしまう恐れがある」と警鐘を鳴らす。「クラウドの利用者は、雲の向こう側についても目を光らせる必要がある」と続ける。

 富永氏はクラウド自身を否定しているわけではない。「うまく使いこなせば、自社でシステムを構築するよりも安く早く新サービスを始められる」(富永氏)。ただし、「社外にデータを預ける、社外のシステムを利用する、といったことによるリスクをあらかじめ認識し、それらのリスクが顕在化したときの対応策や責任のありかを契約であらかじめ決めるといった準備が欠かせない」と指摘する。「クラウドという言葉に惑わされないように注意しなければならない」(同)。

 システム関連のリスク全般について、富永氏は「システム障害をあらかじめリスクととらえ、しっかり対策を講じる企業が増えている」と評価した。一方で「システムの複雑化と企業のシステム要員の減少が進んでいる」とも強調。「システムダウンの減少につながる要素と増加をまねく要素の二つが拮抗しており、システム障害は横ばい状態が続いている」との見方を示した。

 基調講演のタイトルは「ITリスク管理と障害対応のあり方」。富永氏はITリスクに対する考え方として、「ときにはリスクを取ってでも新しい技術や製品を使う判断が必要だ。システム障害を恐れずにスピード開発に挑むことが求められるケースもある」と述べた。「システム障害を恐れすぎていては、大きなリターンにつながるシステムを構築することができない。攻めと守り、スピードと品質、事前予防と事後対策、内製とアウトソーシング、といった要素のバランスを取っていくことが重要だ」と続けた。