写真●プライスウォーターハウスクーパース コンサルタントの山本直樹テクノロジーソリューション シニアマネージャー
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 「企業は,業務の中断により生じる損失をいかに小さくするかを考えるべき。『マスクの備蓄』とは全く異なる次元の対策が不可欠だ」。プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント(PwCC)の山本直樹テクノロジーソリューション シニアマネージャー(写真)は,企業が採るべき新型インフルエンザ対策について,こう主張する。

 PwCCは2009年9月9日に実施した「新型インフルエンザに起因する業績悪化の回避策」と題した記者説明会で,企業は新型インフルエンザ対策として業務の中断リスクを管理するBCM(事業継続マネジメント)の仕組みを整備することが重要だと強調。その実効性を高める2つの方策を提言した。

 1つめの提言は,業務の中断により生じる損失を最小化する手法として「リダイレクト」「移動」「何もしない」のどれかを選ぶこと。部署や業務プロセス単位で,これらの中から1つを選択する。

 リダイレクトは,ある拠点の業務を地理的に離れた別の拠点に移管し,そこで違う担当者が遂行すること。移動は,担当者が普段とは異なる場所に移動して業務を再開すること。何もしないは文字通りの意味で,一定の期間,業務が中断してもよいとする。

 3つの方法はそれぞれ向き不向きがある。リダイレクトは火事や地震などの局所的な災害や,感染拡大のスピードが比較的遅い伝染病に向く。「世界同時に発生する脅威には向かない」(山本氏)。前提として,業務プロセスや情報システムを標準化しておき,「担当者が代わっても業務をスムーズに遂行できる形にしておくことが重要だ」(同)。

 移動は,局所的な災害や伝染病が対象で,経営陣やホワイトカラー社員の対策として向く。一般社員による在宅勤務を可能にするために,シンクライアントなどシステム関連のインフラ整備が必要になる。もう1つの何もしないは,長いスパンの作業や重要性がそれほど高くない作業が対象。災害発生時にどの作業を止めるかを事前に決めるだけでなく,「本当にその作業を止めて事業に大きな影響を与えずに済むか,損失金額はどの程度か,といった事前の分析が必要」と山本氏は話す。

 2つめの提言は,「コマンドセンター」を設立すること。コマンドセンターはBCMを遂行する対策本部の役割を果たす。総務,人事,法務,情報システム,物流,営業など幅広い分野から危機対応の経験を持つマネジャークラスをアサインするのが望ましいとする。

 コマンドセンターの狙いは,危機に直面した際に,適時に的確な判断を下せるようにすること。「欧米では,危機の発生時にCMT(Crisis Management Team:危機管理チーム)と呼ぶバーチャルな組織を作り,そこがコマンドセンターの役割を担うケースが多い。日本企業でそうした例はほとんどない」(山本氏)。

 PwCCの中村潤テクノロジーソリューション統括ディレクターは,「いざという時に政府の援助は期待できない。企業は自己防衛する姿勢が大切」と主張。山本氏は「新型インフルエンザでは,ビルが倒壊しておらず,情報システムも利用できるにもかかわらず,オフィスが使えないという事態が発生し得る。これまでのBCMと異なる対策が必要。提言を生かして,各社で対策を実施してほしい」と訴える。