左から、ADKインタラクティブ代表取締役社長の横山隆治氏、マーケティング/人材育成プランナーの山本直人氏、東芝広告部国内広告担当部長代理の荒井孝文氏、コミュニケーションプランナー/広告ビジネスコンサルタントの高広伯彦氏
左から、ADKインタラクティブ代表取締役社長の横山隆治氏、マーケティング/人材育成プランナーの山本直人氏、東芝広告部国内広告担当部長代理の荒井孝文氏、コミュニケーションプランナー/広告ビジネスコンサルタントの高広伯彦氏
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 9月3日、「ad:tech Tokyo」の最後を締めくくったパネルディスカッションが「マーケター タレントの育成」だ。ADKインタラクティブ代表取締役社長の横山隆治氏がモデレーターを務め、マーケティング/人材育成プランナーの山本直人氏、東芝広告部国内広告担当部長代理の荒井孝文氏、コミュニケーションプランナー/広告ビジネスコンサルタントの高広伯彦氏の3人がパネリストとして登壇。デジタル時代の広告会社、企業の広告担当者のあるべき姿について意見を交わした。

 横山氏は議論の口火として、山本氏が提唱する広告業界の人材を分類するマップを紹介した。マップは、右脳派と左脳派、ネット広告系とマス広告系の2軸で4象限を作るもの。山本氏は、広告会社を退職した約5年前に、ネット系の領域が活発になり人も増えているがマス広告との間に溝があり、それぞれの中で会話しているのはもったいないと思い、そのことを示すためにマップを作ったと説明した。

 続く高広氏は、ネット系左脳派のような人材を「エクセルだけで広告を管理する」面があると表現。ネット系の人は“いい時代”を知らない人が多く、広告が人の心を動かすものだと考えていないと指摘した。横山氏の「いい時代ってどういうこと?」と問いかけには、JR東海が展開した「そうだ 京都へ、行こう。」キャンペーンを例として挙げた。今は広告業界が昔ほど「格好いい業界」ではなくなっており、業界自身のブランドを再確立しないと、いい人材が入らないという懸念も示した。

 それを受けて山本氏は、「広告は境界線上にいた人が集まった業界」と表現した。1960~70年代は、映画監督、小説家になれなかった人が多かった。好景気の1980年代は広告志望の人が増えたが、1990年代以降に景気が悪くなると、「SFC(慶應義塾大学の環境情報学部などがある湘南藤沢キャンパス)を出てネット上でいろいろなことをやってきた人が活躍している」として、広告、ネットなど限定された範囲にとどまらず「境界線を突き破ることが重要」だと指摘した。

 続いて、モデレーターの横山氏は荒井氏に「企業の中の広告人材の課題」を尋ねた。荒井氏は、企業の中に広告の専門家がいないことを問題として挙げた。社内の調整、代理店や媒体との交渉、会社のトップの報告能力が求められ、「広告部といいながら報告部ともいわれる」と表現した。荒井氏が広告部に異動してきた3年前は、Web2.0の勃興(ぼっこう)、テレビCMの崩壊が叫ばれたころ。しかし現場では、従来通りの仕事のやり方で、荒井氏が考えた新しい取り組みはなかなか理解されなかったという。

 「広告会社に求められる人材」というテーマで、高広氏は「広告会社の中で求められている人材は考えない方がいい。広告主、媒体社に求められる人材を考えるのが大事」と指摘。荒井氏は、商品がなかなか売れない時代に、「従来とは違う切り口で、消費者に使ってみたいと思わせるシナリオを一緒に考えてくれる人」と表現。今までの、旧製品との違いを訴求するばかりの広告、マーケティングの考え方を変えないといけないとした。山本氏は、「1つの専門性を持つことが“わな”になる時代」とコメントした。境界線を突き破るという発言に関連し、得意先が知らない周辺分野も知って多面的な顔を持つ必要があり、「いわば(哺乳類だが飛べる)コウモリ、(哺乳類だが卵を産む)カモノハシのような存在」と例えた。

 その後も「研修では人材は育たない、突き放されたぐらいの方がいい」(山本氏)、「環境が悪い今の方が人材育成のチャンス。予算が数百万円でマス広告を出せないが少しでも露出したい。それを(若手と)一緒にやる手もある」(荒井氏)、「マス広告とインタラクティブ広告の両方が分かる(人材を育てる)ということが“わな”。商品を売るにはそれ以外の手法もある。2つに絞った時点で、トラディショナルになる」(高広氏)など、会場からの質問も受け付けながら、広告会社、マーケッターの人材育成に関して活発に議論された。