写真●「エンタープライズ・リスク・マネジメント 2009」で基調講演に立つ河上法律事務所の河上和雄弁護士
写真●「エンタープライズ・リスク・マネジメント 2009」で基調講演に立つ河上法律事務所の河上和雄弁護士
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 「犯罪はいつの時代でも一定数必ず起こっており、『うちの会社は大丈夫』という考えは通じない。犯罪を起こすことができないような環境づくりが必要だ」。東京ビッグサイトで開催している「エンタープライズ・リスク・マネジメント 2009」で2009年9月3日、河上法律事務所の河上和雄弁護士が「最近の企業犯罪と危機管理」をテーマに講演した。

 河上弁護士は「講演のテーマである『最近の企業犯罪』でいうと、西松建設や日本郵政、日本漢字能力検定協会などの例が思い浮かぶ。だがこういった犯罪は近年に始まったものではなく、昔からある」と指摘。「時代が変わっても人間の本質は変わらない」と話した。

 企業犯罪を起こす人物の傾向について「元々そういう素質が備わっているという説があったが、研究でそういう事実はないという結果が出ている。つまり企業犯罪は環境との相互作用によって起こるのであり、環境を適切に整えないと防げない」と語った。

犯罪はいろいろな経路から露見する

 河上弁護士は「会場の皆さんが一番知りたいと思っていることは、どうしてこういった企業犯罪が判明するのか、ということだろう」と話し、自身が東京地検特捜部で部長を務めていた時代の経験を語った。

 「名前や住所をきちっと書いた上で検察庁に不正を通知してくるケースが年間1500~2000件あったが、そのほとんどはささいなことだった。通知の理由は個人的な恨みなどで、大きな事件には発展しない。一方、名前や住所を書かない投書も年間1500~1600あった。この中にもささいな恨みなどを書いた投書はあったが、企業の相当上のポストにある人からの投書もあった。社内抗争の結果として相手の不正に勘付いた、ということが多く、そういったケースでは大きな事件に発展することが往々にしてあった」という。

 また「経営者から当社の経理が使い込みをしているから調べてくれ、という訴えがあって調べてみると、確かに使い込みの事実が見つかった。ただ、経理が簡単に会社の金を使い込めるものではない。当然検察は金の出所も調べる。その結果、使い込んでいた金自体が経営者の不正によって作られたものであることが分かり、経営者も逮捕するといったことがあった」という。

不正が原因で恐喝されることも

 社内告発が検察ではなくマスコミに流れることによって、より悪い事態に陥ることもあるという。河上弁護士は「社内で行政に届出をしていない商売をしていることを知った社員が、それをネタに会社を恐喝しようとする。そんなことには応じないと企業が拒否すると、その社員はマスコミにそのネタを持っていく。大手のマスコミは大事件以外相手にしないが、中にはそういうネタで調査に動くマスコミもある」と語った。

 ついには「マスコミがそのネタを記事にしないことを条件に、金を払えと要求してくるケースがある。一度払ってしまうと最後。要求額はどんどん上がり、払えなくなったところで経営者が警察に駆け込む。最初に素直に謝っていればこんな事態にならなかったはずが、不正を認めなかったために最悪の事態につながる」とした。

不正が起こったら所管官庁に連絡、チャンスをなくすことで未然に防ぐ

 不正を起こしたときに採るべき行動として河上弁護士が挙げたのは二つ。一つ目は所管の官庁へ真っ先に報告することだ。「官庁は基本的には所管の企業をかばおうとしてくれると思って間違いない。だが報告が遅れるとその官庁を敵に回すことにもなりかねない。報告のタイミングは官庁を敵にするか味方にするかの分かれ目だ」とした。

 もう一つはマスコミへの対応。河上弁護士は「記者会見の発言から、マスコミに何度も悪評を報じられたら、その企業は潰れてしまう。事件のときは、普段企業に取材に来ている経済部の記者ではなく、初めて会う社会部の記者が来る。当然厳しい質問も出るが、しっかりと対応しなくてはならない」と語った。

 そのうえで河上弁護士は「社員を信頼するのはもちろん必要だが、信頼しているから何もしない、というのまずい」と語った。一例として「部長や課長の印鑑を、一係員が自由に使えるといった状況を作らない」ことを挙げ、「社員が犯罪を犯すのは環境によるものだ。簡単に不正ができる環境はなくさなくてはいけない」と指摘した。「本人に最初はその気がなくても、取引先に泣きつかれたり脅迫されて不正に手を染めることが起こるからだ」という。

 講演の最後に河上弁護士は「企業問題に関与してきて感じたことは二つにまとめられる。一つは企業をきれいに存続させ発展させるためには、油断をしてはいけないということ。もう一つは慣れてはいけないということ。慣れからくるミスが企業に大きなマイナスをもたらしてしまう」とまとめた。

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一部に誤解を招く表現がありましたので、修正いたしました。 [2009/09/03 17:40]