左から、イオンマーケティング代表取締役社長の小賀雅彦氏、CMOワールドワイド代表取締役CEOの加茂純氏、KDDIのマーケティング本部長の村山直樹氏
左から、イオンマーケティング代表取締役社長の小賀雅彦氏、CMOワールドワイド代表取締役CEOの加茂純氏、KDDIのマーケティング本部長の村山直樹氏
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 マーケティングとITの専門イベント「ad:tech Tokyo」では2009年9月2日、「CMOの存在意義」と題したパネルディスカッションが行われた。CMOワールドワイド(東京都渋谷区)代表取締役CEOの加茂純氏がモデレーターを務め、KDDIのマーケティング本部長の村山直樹氏、イオンマーケティング代表取締役社長の小賀雅彦氏、米ウェブビジブルCMO(最高マーケティング責任者)のケビン・ライアン氏、東京大学教授のクリス・ボーモント氏がパネリストとして参加した。

 まず加茂氏が、企業が今後取り組むべき“マーケティングカイゼン”について解説した。ポイントは、(1)消費者インサイトをつかむためのマーケティングサイエンス、統計的な処理の必要性、(2)企業ブランドに影響を与えるマーケティング、CSR(企業の社会的責任)、PR、IR(投資家向け広報)全体の管理、(3)投資効果を測り、回収の最大化を目指すマーケティングアカウンタビリティ、(4)それらを実現するためのマーケティング組織の再構築にあると説明。CMOをカイゼンの実行リーダーと位置付け、推進することが重要と訴えた。

 続いて、KDDIの村山氏が登壇。同社が抱える「マーケティングプラン」と「メディアプラン」の課題を説明した。

 村山氏はまず、「消費者の逆マーケティングの能力が上がっている」ことを解説した。消費者が自ら欲しいものの情報を能動的に調べて評価し、買った物に対するレビューを投稿する状況が「間接的なブランディング」になっていると表現し、企業によるブランドコントロールが難しくなっているという現状認識を示した。

ターゲット中心のメディアプランニングに変化

 村山氏はそうした環境下で、企業は「本質的に経験価値がいい物を提供できないと、コントロールができないデジタルメディアの中では負け組になる」として、「表面的な価値ではなくお客様に本当にいいものを提供することを目指すことが、マーケティングで意識し始めている重要なテーマ」と明かした。

 一方、メディアプランの面では、村山氏が以前に宣伝部長をしていたころは、「タッチポイントマネジメント、コンタクトポイントマネジメントが重要だった」という。さまざまなメディアを通して統合したブランドのイメージを伝えることを意識していた。

 しかし、企業の一方的なブランドコントロールが難しい現在では、ターゲット層を細かく設定して、各ターゲットを中心にしてメディアプランニングをすることが求められる。20代OLの接触メディアもここ数年で大きく変わっており、ツールを使って分析、設計する必要がある。その中には、従来には無かった検索ワードの検討まで含まれており、広告代理店ではなく企業自身が積極的に取り組まざるを得ないのが実態だという。

 村山氏は、「従来の何千GRP(延べ視聴率)、新聞何段に出稿するので認知率何%という提案を、我々は聞きたくないということに気付いていない」と、広告代理店の変化が遅れていることを厳しく指摘した。

 さらに、「Webサイトに誘引するといっても(その状況を)把握しているのは広告主。発注先もいろいろあるので、ある代理店にすべてを任せることはあり得ない。すると、どの導線設計、メディアの組み合わせが正しかったか(の知見)は代理店には残らない。だから、クライアント自身が自ら作らないといけない」として、マーケティング効果の情報を把握できる立場から、主導権がクライアントに移っている現状を語った。

CRMを徹底的に深掘りするイオンマーケティング

 続いて、2009年7月に設立されたばかりのイオンマーケティングの小賀氏が、同社の概要、今後の事業展開を説明した。

 事業展開の例として挙げたのは、イオングループで結婚相談所事業を手掛けるツヴァイの顧客に対して、結婚が決まった後にブライダル施設の紹介、乳幼児向けサービス、金融サービスなどイオンのグループ168社の事業を横断的に提供できるようにするもの。特に「CRM(顧客情報管理)を徹底的に深堀りするのが事業の柱」として、まずイオングループの金融事業の拡大において、「価値ある分析ができるかが試金石になる」(小賀氏)とした。

 今後の事業展開として、初年度はPOS(販売時点情報管理)データの分析などでグループ各社の業績に寄与する実績を作るという。そこで認知されることで、「(社外の)メーカーなどへもサービスを提供できるのではないか」(小賀氏)とした。2年目はケータイCRM、3年目以降は顧客のライフステージに応じたグループ会社の横断的なサービスを提供したいとした。

 中小企業向けにネット広告関連サービスを提供するウェブビジブルのライアン氏は自身の経験などから、「CMOはさまざまな変化、ニーズに対応する必要がある」と提言。東京大学のボーモント教授は、「マーケティングは全社的、戦略的と位置付ける」ことが求められているとし、マーケティングに携わることは重要なキャリアだと認識する必要があると、マーケティングの社内的な地位向上を訴えた。