写真●関西学院大学商学部の平松一夫教授
写真●関西学院大学商学部の平松一夫教授
[画像のクリックで拡大表示]

 「会計基準は概念・実務上の合理性だけでなく、政治力学でも決まる。日本はいつも世界の潮流に後追いして苦労してきた。IFRS(国際会計基準)の設定に当たり、日本は積極的に影響力を発揮すべきだ」。2009年8月27日に開催された「国際会計基準シンポジウム」の特別講演で、関西学院大学商学部の平松一夫教授はこう強調した(写真)。

 平松教授の専門は国際会計で、金融庁企業会計審議会の委員を務める。「国際会計基準IFRSに日本企業はどのように向き合うべきか」と題した講演では、学者として国際的な会計基準設定の流れを見つめてきた経験を基に、現状を分析した。

 講演で一貫して強調したのは、日本企業や政府がIFRSの設定に関して積極的に“政治力”を発揮すべきだとした点だ。「米国はこれまで独自の会計基準(米国会計基準)を確立して、他国にも適用させようとしてきた。だが、米証券取引委員会(SEC)は2008年11月に『米国企業によるIFRS採用についてのロードマップ案』を発表したことで、IFRS採用へと大きくかじを切った。ただ、米国の姿勢もまだ揺らいでいる。米国がためらっている今こそ、日本の考え方をIFRSに反映する活動をすべきだ」と平松教授は話した。

 日本企業がIFRSに移行する時の考慮点についても、平易に解説した。例えば、システム開発業者の会計処理にも使われるようになった工事進行基準(関連記事)に関して、「旧来の工事完成基準から工事進行基準への移行を急いだ企業が少なくないが、IFRSでは(工事進行中の)“動態”よりも、(工事完成後の)“静態”を重視する流れがある。IFRSが適用されれば、再び工事完成基準に戻る可能性もある」との見方を示した。

 さらに、日本の会計関係者は「監査法人や企業内でIFRSが分かる人材を急いで育成すべきだ」と強調した。IFRSの実務は従来の日本会計基準の実務と大きく異なるうえ、国際的な基準策定の動向にも左右される。「『会計が分かる人に英語を教えるよりも、英語が分かる人に会計を教えたほうが早い』と述べる論者までいる。公認会計士や企業の会計担当者にも国際性が求められる時代になる」と話した。