日立情報システムズで流通情報サービス事業部情報サービス本部第二設計部主任技師を務める大江伸登氏
日立情報システムズで流通情報サービス事業部情報サービス本部第二設計部主任技師を務める大江伸登氏
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 「サーバー統合を成功させるためには,5段階ある導入フェーズのそれぞれに,欠かすことのできない重要なポイントがある」---。日立情報システムズでユーザー企業のサーバー統合を手がける流通情報サービス事業部の大江伸登主任技師は2009年7月29日,「仮想化フォーラム2009 Summer」で講演し,事例を通じて明らかになった「サーバー統合を成功に導くためのポイント」を紹介した。

 冒頭で大江氏は,サーバー統合がもたらす変化とメリットについて改めて言及した。メリットの1つはサーバー台数が減ることである。利用効率が高まり,無駄を排除できる。設置費用などのランニング・コストも減る。もう1つのメリットは,サーバーの運用スタイルが変わること。例えば,サーバー機の廃棄手続きが簡略化され,システムから仮想マシンを削除するだけで済むようになる。

 従来は,業務アプリケーションを増やすごとに,それに合わせてサーバー機も増やしていた。一方で,仮想化によるサーバー統合後は,物理リソースを複数の業務サーバーで共有する。物理リソースに余裕があるうちは新規の物理サーバーを買い増す必要がない。

 IT資源とアプリケーションのライフサイクルを分離できることも重要なメリットと大江氏は指摘する。サーバー統合以前は業務アプリを増やすごとにサーバー機も増やしていたが,統合後はサーバー機をセットで導入する必要がないため,予算の使い方が柔軟になる。

ポイントを押さえてサーバー統合を成功に導く

 次に大江氏は,ユーザー企業A社の事例を示し,サーバー統合を成功へと導くポイントを示した。A社は,22台のラックで121台の物理サーバーを運用していたが,このうち74台を仮想サーバーに移し,ラックの台数を大幅に削減したという。

 大江氏が指摘するサーバー統合の技術要素は,サーバー/ストレージ構築技術,ネットワーク構築技術,運用効率化技術の3つである。この上で,サーバー統合のステップは,5つのフェーズに分割されるという。(1)アセスメント,(2)要件整理,(3)設計,(4)構築/移行,(5)運用/評価---である。このステップが王道であり,成功のキモであるとした。

 (1)アセスメントのフェーズでは,サーバー負荷などのデータ収集,分析,レポーティングを実施するという。アセスメントの結果,サーバー機が9台必要と見積もられたら,余裕をもって10台用意するのが成功の秘訣である。

 (2)要件整理では,OSライセンスの棚卸しが必要という。例えば,OEM版のライセンスを使っている場合は,別のハードウエアにOSを移管することができないため,新規に購入する必要がある,といった具合だ。ここに注意する必要がある。

 (3)設計フェーズでは,サイジング(性能・容量設計)を実施する。通常は,CPUの動作周波数とメモリー使用量のピーク値を積み上げていく。物理サーバー機の「許容能力の70%までは割り振っても大丈夫」という設計ポリシーが一般的という。もちろん,サーバーごとのピーク時間の違いを考慮する。ネットワークの設計も重要だ。例えば,同一のNICを共有する複数の仮想サーバーは,別のVLAN(仮想LAN)に配置するケースもある。

 (4)移行フェーズでは,P2V(物理環境から仮想環境へサーバーのインストール・イメージを移行する)ツールを利用するという。A社の事例では,VMware Converterを利用した。移行の際には,いくらオンラインのマイグレーションが可能であるとはいえ,業務を可能な限り停止したほうがよいという。移行後の検証も重要であり,データ・エントリやアウトプットの検証などを実施する。A社の場合は,事前検証で全システムを確認した。これによりリスクが減る。

 (5)最後に残る重要なポイントとして,サーバー設備のアウトソーシングも検討すべきであると大江氏は言う。アウトソーシングの費用はラックの数によって決まるが,サーバー統合によってラックの数を減らせるため,アウトソーシングが有効となるのである。大江氏が手がけた事例では,ラック台数が14台から2台へ削減できたという。この場合,単純にアウトソーシング費用は7分の1で済むことになる。