写真●香川大学瀬戸内圏研究センターの原量宏特任教授
写真●香川大学瀬戸内圏研究センターの原量宏特任教授
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 「約30年間産科医として働いた後、医療情報システムの世界に足を踏み入れた。産科医として医療現場にいた当時から将来の周産期医療に危機感を抱き、ネットワークを介した医療情報の活用を考えていた」。香川大学瀬戸内圏研究センターの原量宏(かずひろ)特任教授は2009年7月15日、「国際モダンホスピタルショウ2009」の主催者セミナー「かがわ遠隔医療ネットワークと周産期電子カルテ構築の経緯」の冒頭でこう語り、産科医不足による産科医療の危機を救うために医療のIT化が重要であると強調した(写真)。

 原特任教授は厚生労働省の調査を引用して産科医療の背景を説明。1994年から2006年にかけて、医師総数は20.6%増加した一方で産科・婦人科医は13.1%減少した。男女構成では徐々に女性医師の割合が高くなってきた。

 こうした産科・婦人科医の構造の変化から、「周産期医療の第一線で長く働ける医師が減ってきている。医師が減れば、医師のいる施設に検診からお産まで、あらゆる目的で妊婦さんが殺到する。医師は多忙を極め、病院側は訴訟などのリスクを考えて産科を閉めることになる」と現在の悪循環を指摘した。

 こうした産科医療はITで補完できると原特任教授はみる。その一つが「在宅妊婦管理システム」だ。胎児の心拍数と母体の子宮収縮を遠隔で観察する仕組みを指す。胎児の心拍数と母体の子宮収縮を専用機器を使って測定すると、測定結果を自動的に専用サーバーに伝送する。同時に医師の携帯端末にメールを自動送信し、医師はメール本文のURLにアクセスすると胎児の心拍と子宮収縮の状況をグラフで確認できる。専用サーバーは香川県にある四国電力のシステム子会社のSTNetに設置する。

 「システムが普及すれば、離れたところにいる妊婦さんの状態を複数の医療施設で把握できるようになる。普段の検診は診療所で、お産は病院で、と目的ごとに医療施設を使い分けることができ、個々の産科への負担を減らせる」と原特任教授は説明する。今後こうした仕組みを血糖値や血圧に変えて、高齢者向けのシステムとして利用することもできるという。

 こうした医療情報ネットワークは、開始当初から収益が見込めるわけではないので、企業が先行して始めるのは難しい。国の予算を獲得して企業を巻き込んで実証実験を進めている原特任教授は、「国として、医療のIT化の予算は今後も減らさないでほしい」と訴えた。