初公判終了後に記者会見を行ったウェルネット 取締役 尾藤昌道氏(左)とケンコーコム 代表取締役 後藤玄利氏(右)
初公判終了後に記者会見を行ったウェルネット 取締役 尾藤昌道氏(左)とケンコーコム 代表取締役 後藤玄利氏(右)
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 東京地方裁判所で2009年7月14日,ケンコーコムとウェルネットによる,厚生労働省の医薬品通信販売規制に対する行政訴訟の初公判が行われた。

 厚生労働省が2009年6月1日に施行した「薬事法の一部を改正する法律」の省令により,安全確保のための対面販売の原則を理由に,第1類医薬品および第2類医薬品の通信販売が,へき地と継続使用を除いて禁止された。ケンコーコムとウェルネットはこの省令が違憲であり無効であることの確認を求め,国を相手取り提訴していた。

 公判でケンコーコム 代表取締役 後藤玄利氏は「6月は2300人のお客様に販売をお断りし,前月と比べて医薬品売り上げが62%減少した」と規制の影響を報告。「改正薬事法施行後の7月に,第2類医薬品を買うためにドラッグストアに行ったが,薬剤師でも登録販売者でもない単なるアルバイトの店員が販売し,かけられた言葉は『ポイントカードをお持ちですか?』だけだった。このような対面販売を守るために,真面目に情報を提供するネット販売が禁止されたのは本当にやるせない」と語り,「裁判官の方に,ケンコーコムのサイトで医薬品を購入しようとするとどのような情報提供がなされるか試していただきたい。同じ薬をドラッグストアで購入してみていただければ,どちらがより安全か明らかになるはず」と訴えた。

 ウェルネット 取締役 尾藤昌道氏も,2009年4月に600万円あった売り上げが6月は4分の3の450万円まで落ち込んだと話す。「風邪薬,鼻炎薬,咳止め,鎮痛剤,便秘薬,下痢止め,ユンケルも2類であり販売できなくなった。ビタミン剤と整腸剤,うがい薬しか置いていない店にお客様は来ない。これは『ネット販売規制』ではなく事実上の『ネット販売禁止』。家族経営の小さな店舗で,このままでは事業が継続できなくなるかもしれないと不安になる」と訴えた。

 ケンコーコムとウェルネットの代理人である弁護士 阿部泰隆氏は「ネットで販売したことが原因となった副作用の例は報告されていない。店舗に行くことが困難な,障害があったり介護中だったり,近くに薬局がなかったりする消費者にとってネット販売禁止は,必要な医薬品の入手を困難にして,かえってその健康と生存を脅かす」と批判。

 また「へき地で医薬品を販売するための特例販売業という制度がある。指定されたへき地以外で販売すれば脱法行為だが,実際にはこの許可を取った事業者が新聞広告を出し全国に医薬品を通信販売している。厚労省はこのような通信販売を規制していない。結局,安全は大義名分でしかなく,天下り団体や政治献金の多い団体を優遇するご都合主義の規制をしているに過ぎない」(阿部氏)と主張した。

 そして「誤服用を防ぐためには販売禁止ではなく,ネット,薬局,コンビニ,特例販売業すべてに共通に,情報提供方法を具体的に定めて義務付ければ十分。情報提供という手段があるにもかかわらずネット販売を禁止し,憲法22条で保障する営業の自由を侵害している。また薬事法36条の6は情報提供などについて定めることを省令に委任しているだけで,どこにも対面販売の原則を規定していない。省令で対面販売の原則を導入し,1類,2類医薬品のネット販売を一律に禁止するのは法律の授権を欠き,憲法41条に違反する」(阿部氏)と訴えた。

 原告は厚生労働省に対し,以下のような質問への回答を要求した。

(1)6月1日以降も,店舗などにおける対面販売での情報提供に特段の変化は見受けられないが,厚労省はどのような取締りを行わせるのか。

(2)一部の会社が特例販売業許可を利用してへき地から全国へ向けて医薬品の通信販売を行っている事態について厚労省は知っているのか。脱法行為でないと解するのであればその理由は何か。これを「当分の間」認めるのに,これまで認められてきた通信販売をほぼ全面的に禁止した理由は何か。

(3)薬事法36条の6第4項は,第1類医薬品の情報提供について,購入または譲り受ける者から「説明を要しない」という意思の表明があった場合には情報提供の条文を適用しないこととしているが,この条文がありながら,情報提供をインターネットで受け,それで十分であるという購入者の意思表明があってもネット販売が禁止される理由を説明されたい。

 原告の意見陳述に対して,被告である国側の反論は初公判では行われず,今後の書面および公判でなされることになった。第2回公判は9月1日に開廷される。

 公判後,ケンコーコムとウェルネットは記者会見を行い,「この省令はどこから見ても違憲の暴挙。裁判では『重大な憲法事件』であるという裁判長の発言が何度かあり,裁判官も憲法違反を争点として認識している」(弁護士 阿部氏)と述べた。ケンコーコム 後藤氏は「売り上げの損失や継続購入確認のコストなど,日々損失が発生している。迅速に審理を進め,以前のようにネット販売が継続できるようになることを希望している」と訴えた。