安川電機の利島康司取締役社長
安川電機の利島康司取締役社長
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 「今は大変な大不況だが、ようやく底を脱するかという場面に来ている。『今やらなければならないこと』『今だからやれること』を徹底的にやり抜いて、生き残れば“勝ち組”になれる」。2009年7月3日に都内で開催された「IT Japan 2009」で、ロボット・モーター大手である安川電機の利島康司取締役社長はこう強調した。利島社長は「イノベーションでこの難局を乗り切る」と題した基調講演を行った。

 安川電機の主力製品は、自動車や電子部品業界向けを中心とした、産業用ロボットやモーターである。2009年3月期業績は連結売上高3502億円(前年比8.4%減)、経常利益200億円(同43.1%減)だった。世界同時不況の影響を受け、2008年秋ごろから業績が急減速。「今は売上高が大きく落ち込んで、前年比で7割程度の水準になっている。かつてない厳しい状況だが、私は全然弱気になっていない」と力強く話した。

 その根拠として、安川電機が歴史的に産業構造の変化による危機を何度も体験済みであることを説明した。同社は1915年設立で、北九州市八幡西区に本社を置く。「創業時は周辺の炭鉱向けの機器を作っていたが、炭鉱自体が衰退した。次に製鉄所向けの機器に展開したが、この需要も頭打ちになった。1970年代以降、日本の自動車産業が成長するのに合わせて、ロボットに力を入れた。経営の厳しい時期に先行投資したのが実って、累積出荷台数は21万台になり、この分野で世界一になった」と話した。

 一方で「ロボットには相当な自信を持っていたが、自動車業界の工場用途などに特化した分、市場の範囲が偏っていた。今回のような大きな波が来ると乗り切れない。大いに反省している」と率直に話した。

家庭用ロボット「フューチャー・ワイフ」開発目指す

 復活への道筋として「ヒューマン&エコメカトロニクス」というキーワードを掲げた。「これまでは自動車工場の溶接用ロボット、塗装用ロボットなどを中心に作ってきたが、今は人でしかできないもっと細かな組み立て作業ができるロボットを作りたい。家庭や介護施設で働くロボットも作れないかと考えている」。ワイフ(妻)が寝転がっている一方で、ロボットが家事をしている「フューチャー・ワイフ」という写真を未来像として示した。

 家庭用ロボットなどの実現のためには「これまでに培った技術を生かしつつ、もう一段のイノベーションが必要。家庭向けでは、安全性やアフターサービス体制などでも革新が必要だ」と道筋を示した。「そのために、新しい技術をやりたい、新しいことをやりたいという人材が不可欠」。利島社長自ら「人づくり推進担当」を務め、時間のある限り社員との直接の対話集会を開く「Yわい倶楽部」の活動などを説明して、講演を締めくくった。