日本オラクルの遠藤隆雄社長
日本オラクルの遠藤隆雄社長
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 「いつ景気が底を打つか。これが経営者同士の時候の挨拶のようになっている。だが聞いている方も回答する方も予測できないと考えている。それくらい現在は予測不能の時代だ」。2009年7月3日、東京都内で開催した「IT Japan 2009」で日本オラクルの遠藤隆雄社長が登壇。「企業再生に向けたビジネス基盤の変革」と題して講演した。

 遠藤社長は現在の経営環境で生き残るための条件を二つ挙げる。基礎体力をつけることと、チャンスが訪れた時の対応力をつけることだ。基礎体力は財務基盤を整えること。「予測不能の時期だからこそ、倒産といった事態を引き起こさないようにすべき」と遠藤社長は強調する。一方のチャンス対応力について遠藤社長は新型インフルエンザでマスクが品切れになったことを例に挙げながら、「先が読めない時期だからこそ、不測の事態で急にビジネスチャンスが立ち上がるかもしれない。こうした変化に対応していく力を備えるべきだ」とする。

 ただし「二つの条件だけでは、生き残れても、成功を収めることはできない。勝つために必要なのは、自ら変化を作り出す力」と遠藤社長は指摘する。遠藤社長は「企業内で変化に対応できないのはITとヒト。変化に合わせてIT基盤もビジネスを支える柔軟性が必要」と続ける。「業務プロセスの変化に対応できる一方で、ITインフラ自体が効率化されることが重要だ」という。

 自ら変化を作り出した例として遠藤社長が挙げるのは、インドのタタ・モーターズの低価格自動車「ナノ」だ。タタ・モータズは米オラクルのアプリケーションを導入し、短納期化やサービスパーツの管理を進めている。遠藤社長は「ナノ自体が売り上げ原価の引き下げというモデルを作り出した。そのうえで、納期の短縮やアフターサービスの満足度向上も目指している」と説明する。タタ・モーターズは受注と同日に配送できる割合を2006年の58%から2008年の79%まで引き上げているという。その裏には地域別や色別の売上高を日次で分析し、生産を調整できるシステムがある。

 次に遠藤社長が取りあげたのは、米国の銀行、ウェルズ・ファーゴの事例だ。「変化しにくい人材をITで支援している例」(遠藤社長)である。ウェルズ・ファーゴは、米オラクルのタレントマネジメントのアプリケーションを導入。コールセンターの担当者ごとに顧客満足度をダッシュボードで見える化した。満足度が低い担当者を集めて講習を実施するなどして、人材の底上げを目指しているという。

 遠藤社長はタタ・モーターズやウェルズ・ファーゴのように、「変化を支えるIT」を支援するためのITとして、SOA(サービス指向アーキテクチャ)を挙げた。システムはレガシーからオープン化の時代になった。さらに、他社と異なるシステムを持つことよりも、スピードを重視する企業が増え、ERP(統合基幹業務システム)パッケージの導入が進んだ。さらにSOAの考え方を取り入れることで、もっと柔軟なシステムが構築できる」と遠藤社長は強調する。「最近ではレガシーシステムから、SOAに基づいたシステムの構築に一気に移行する企業も出てきている」(遠藤社長)という。

 最後に遠藤社長は「瞬時に対応する、がこれからの時代のキーワードになっている」と指摘。「アプリケーションだけでなく、それを支えるSOAやITインフラの可用性を高めることが、企業を再生し、これからの時代を勝ち抜く企業になるためのカギだ」とした。