日本マクドナルド代表取締役会長兼社長兼CEOの原田泳幸氏
日本マクドナルド代表取締役会長兼社長兼CEOの原田泳幸氏
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 日本マクドナルド代表取締役会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)の原田泳幸氏は2009年7月2日、東京都内で開催された「IT Japan 2009」2日目に特別講演を行った(写真)。「厳しい環境にあってこそ、継続した成長を遂げるために」と題した講演で原田氏はCEO就任後を振り返り、業績回復と成長を持続させるための“秘訣”を語った。

 外食産業で初の売上高5000億円超、当期純利益が上場以来最高値---。厳しい経済環境の中で好業績を収めている日本マクドナルドだが、原田氏が入社する前は売り上げ、客数が減少の一途をたどる低迷期が続いていた。その当時を原田氏は「人に対する投資を止めて、店舗拡大に投資したひずみが生じていた」と振り返る。

「選択と集中」で活路を見いだす

 原田氏はCEO就任後に、まず人事改革に着手。人材面での積極的な投資を再開し、日本の特殊事情を取り入れたグローバル化の対応に力を注いだ。「マック本来の強さを取り戻して発展させることに人、モノ、金を集中させて回復を図った」。

 業績回復に成功したカギとして、原田氏は「新規顧客獲得」「投資の継続」「People Excellence(人材)」の3点を挙げる。ビジネスを軌道に乗せるためには、顧客を増やす、客単価を上げる、利益を出すなどが必要になる。原田氏はこれらを一度に実現するのでなく、「バランスを見ながら一つずつ選択と集中を進めてきた」。

 まず、高い優先度を置いたのが顧客を増やすことだ。新規顧客を呼ぶためのメニューや来店頻度を上げるためのメニューなど、一つひとつの策を積み重ねて着実に顧客獲得につなげた。

 原田氏の講演の中で、頻繁に出てくるキーワードがこの「選択と集中」である。「あれもこれもというように、全部を一度にすることはできない」「投資においても順番を間違ってしまうと投資効果を出せない」などと、優先順位を決めた上で集中的に投資することの重要性を説く。

 例えば業績回復のために最も優先させたのが、レストランビジネスの基本である「QSC」(Quality:品質、Service:サービス、Cleanliness:清潔さ)の向上だ。成長路線に転ずるためにはまず、基礎力をしっかり固めることを最優先させた。「今でも毎月のQSCのスコア向上のために徹底して取り組んでいる」。

 選択と集中は、店舗戦略にも表れている。1年ほど前には、店舗のメニューボードに21種類のメニューを掲示していた。現在はこれを7種類に絞り込んだ。種類が少ないほど、顧客がメニューを選ぶ時間が短くなり、売り上げ拡大につながるとの判断からだ。

 「回復期は終わった。今は成長期に入っている」。原田氏は現状をこう説明する。これからの5年間のテーマとして掲げるのが「ばらつきの改善」である。店舗の規模やデザイン、厨房の生産能力、店舗のオペレーションの質などに見られるばらつきを標準化するという。

 成長を持続させるための手段として、IT活用にも意欲的だ。携帯電話で利用できるクーポンやCRMを活用したeマーケティングを展開している。「ニンテンドーDS」と無線LANを活用してゲームやスタンプラリーなどを楽しめる新サービス「マックでDS」をこの6月から開始した。

 ニンテンドーDSは従業員教育にも活用。「イースマート」と名づけた従業員トレーニング用のプログラムを開発した。「従業員に押し付けの教育をするだけでは質は上がらない。教育を受けるモチベーションを持ってもらう」ことが狙いだという。