写真●伊藤忠商事の小林栄三 代表取締役社長
写真●伊藤忠商事の小林栄三 代表取締役社長
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 伊藤忠商事の小林栄三 代表取締役社長は2009年7月2日、東京都内で開催された「IT Japan 2009」の基調講演に登場した(写真)。小林社長は「魅力溢れる世界企業に向けて」と題して講演。日本が世界に誇れる“強み”として人材と技術を挙げ、「人材と技術があれば世界に立ち向かえる」と強調した。

世界同時不況の背景にICTの進化

 「2008年度は天国から地獄というか、これだけ強烈に経営環境が変わるのは初めての経験だった」。小林社長は、金融危機に端を発する世界同時不況についてこう語る。世界的な不況が急激に進んだ背景の一つとして、「ICT(情報通信技術)の大きな進化が作用した」と指摘する。

 小林社長が指摘するのは、例えば事件が発生した翌日には世界中に情報が知れ渡る環境が構築されていることだ。世界同時不況も瞬時に世界中に情報が伝わったことで、「みんなが一斉にブレーキを踏んだ。情報が即座に伝わる環境になったことをいつも念頭に置いておかなければならない」。

 世界同時不況以前の状況について、小林社長はこう振り返る。「2003年後半から2008年前半にかけては世界はまれに見る同時好況で、この5年間は間違いなくすばらしい経営環境だった」。その結果、消費が増大する中で「過剰供給の体質が生まれた」。ところが消費が一気に冷え込むと、「過剰供給と過剰消費の調整が猛烈な勢いで始まっている」。

 不透明な経済状況が続く一方で、「明るい兆しも見えつつある」と小林社長は言う。その要因は三つ。(1)在庫調整が進んだ、(2)世界各国の景気刺激策の効果が出始めている、(3)各国の株式相場を中心にムードが良くなっている、である。

多様な価値観理解できる人材育成を

 企業はどのような方向に進むべきか---。小林社長は、今後減少が予測される人口と経済規模の変化という二つの要素を踏まえ、「日本が一つの国として独自にやっていける時代は過ぎた。世界の中の日本を改めて認識することが必要だ」とした。

 日本が世界と立ち向かうためには、まず会社の発展に貢献する人材を発掘して育成することだ。こうした人材について、小林社長は英語力に加えて「多様な価値観を理解し受け入れられる能力が必要」だと強調。人材と技術を前面に出すことで、環境やエネルギーなどの分野で強みを発揮できるとした。

 さらにコミュニケーションの重要性についても言及した。「経営でいつも感じていることだが、コミュニケーションは簡単なようでものすごく難しい」。小林社長は社員に対して双方向でのコミュニケーションをとるように常日ごろから伝えている。上長が一方通行で部下に話すだけでなく、部員間での話し合いを重視する。

 コミュニケーションに加えて大切にしているのが、「人に対して関心を持つこと」だ。「無関心になっていることが多いのではないかと心配している。部員に対しては愛情を持って接することが非常に大事なことだ」と小林社長は強調した。