総務省の情報通信行政・郵政行政審議会は2009年6月30日,NGNのIPv6インターネット接続に係る接続約款の変更案に対して寄せられた意見を公開した。この変更案は,NTT東日本とNTT西日本が5月19日に総務大臣に対して認可を申請したもの(関連記事)。接続方式として,「トンネル方式」と「ネイティブ方式」の二つの方式が並立する内容となっている。トンネル方式は,ユーザー宅に置く「アダプタ」とNGNの網終端装置の間にトンネルを設け,IPv6パケットをやり取りする。もう一つのネイティブ方式は,最大3社の接続事業者(ISP)だけがNGNと直接接続し,他のISPはローミング・サービスを利用してユーザーのIPv6パケットを転送する。

 総務大臣の諮問を受け,同審議会の電気通信事業部会は5月27日~6月25日でパブリック・コメントを募集した。この期間に寄せられた意見は全部で12件。意見を提出したのは,ケイ・オプティコム,EditNet,インターネットイニシアティブ(IIJ),ソフトバンクBB,ソフトバンクテレコム,ソフトバンクモバイル,KDDI,NECビッグローブ,電算,新潟通信サービス,日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA),ナインレイヤーズ,イー・アクセス,イー・モバイル株式会社,JAIPA 地域ISP部会--である。

 意見の内容としては,ネイティブ方式の問題点を指摘するものが多い。ただし,両方式について賛成する意見もあった。以下に,主な意見をまとめた。

[主にネイティブ方式の問題点を指摘する意見]

  • ネイティブ方式の接続事業者(ネイティブ接続事業者)を最大3社に限定するのは,そもそも電気通信事業法で禁止されている接続拒否に当たる
  • ネイティブ接続事業者を最大3社にする技術的理由が十分示されていない
  • ネイティブ接続事業者の最大3社の制限は,今後の技術革新によって緩和される可能性があるため,継続的な検証を義務づけるべき
  • ネイティブ接続事業者は最低でも10社程度以上にすべき
  • ネイティブ接続事業者の最大3社の制限を緩和する時期を明示すべき
  • ネイティブ方式のPOI(相互接続点)が東日本エリアと西日本エリアに1カ所ずつしか設けられない理由が示されていない
  • ネイティブ方式のPOI(相互接続点)は,ISPの要求に応じて増やすべき
  • 広域接続を前提にするネイティブ方式は本来のNTT東西の業務を逸脱する
  • ネイティブ方式でNGN内に閉じたルーティング機能(網内折り返し機能)は,犯罪捜査や迷惑通信への対応ポリシーなどに影響するため,認められるべきではない
  • ネイティブ方式の網内折り返し機能はまだ存在しないサービスであり,それに料金を設定して提供するなら,活用業務の認可申請が必要になるはず。したがって,今回の認可申請ではネイティブ方式を利用できないと明記すべき
  • NTTグループの市場支配力が強まることを避けるために,同グループ所属の事業者がネイティブ接続事業者に申し込むことを禁止すべき
  • 配下のISPのユーザー数の合計の上位を選ぶというネイティブ接続事業者の選択基準を採ると,NTTグループのISPだけで3社の枠を占められる恐れがあるため,その枠の複数については同グループのISPが応募できないようにすべき
  • ネイティブ接続事業者の3社を選択する作業は,透明性の確保の意味で,NTT東西ではなく外部の第三者機関が実施すべき
  • ネイティブ方式で接続事業者の個別負担とされている様々な構築費用は,トンネル方式と同様に基本料金としてNTT東西が持つべき
  • ネイティブ方式で接続事業者が負担する構築費用が高額すぎるため,もっと低廉にすべき
  • ネイティブ接続事業者を選定した後の事業合併はISP事業の独占につながる恐れがあるため,そうした合併によって空いた枠に新規参入するなどの措置がとられるようにすべき
  • ネイティブ方式では,NTT東西,ネイティブ接続事業者,競合するISPがユーザー情報を共有するため,そうしたユーザー情報を隔離する仕組み(ファイアウォール)が必要となる
  • ネイティブ方式は技術的,制度的な課題が解決してから導入すべきであり,現時点での導入は時期尚早

[主にトンネル方式の問題点を指摘する意見]

  • トンネル方式でのアダプタの負担はネイティブ方式に比べて競争上不利になる
  • アダプタの追加費用で不利になるトンネル方式をネイティブ方式より先行して提供するように義務づけるべき
  • トンネル方式において,外付けのアダプタを使うのではなく,それらの機能をホーム・ゲートウエイ(HGW)に統合すべき
  • ネイティブ方式に対してトンネル方式が不利にならないように,アダプタの費用はNTT東西が負担すべき
  • トンネル方式のアダプタに実装されるIPv6 NAT機能はまだ国際標準がないため,国際標準が確立された後の対応について事前に説明すべき
  • 名称が「トンネル方式」よりも「ネイティブ方式」の方が良いイメージを受け,NTT東西がネイティブ方式にISPを誘導したいという意図が見受けられる
  • トンネル方式やネイティブ方式の名称が技術的な内容を適切に表しておらず,適切な名称を再検討すべき

[全般的な問題点を指摘する意見]

  • FTTHのアクセス網とNGNを一体化していることがそもそも問題であり,NTTの組織形態を見直して,アクセスとIPトランスポートを分離したうえでIPv6インターネット接続を議論すべき
  • 今回のIPv6インターネット接続については,別の活用業務として新たな認可申請が必要
  • そもそも今回の「IPv6マルチプレフィックス問題」が発生した原因は,NTT東西が自社のNGN向けにIPv6グローバル・アドレスを使用したことにあり,問題解消にかかる費用は全額NTT東西が負担すべき

[主に賛成を示す意見]

  • 現行のIPv4インターネット接続と同じ仕組みのトンネル方式は維持すべき方式である
  • ネイティブ方式は,トンネル方式のようにIPネットワーク上にオーバーレイの仕組みを設ける必要はないため,シンプルな構成になり,接続機能を低コストで構築できる
  • ネイティブ方式はNGNのサービス機能にシームレスにアクセスできる
  • トンネル方式とネイティブ方式の両案を基本機能として,ISPにどちらかを選択させるべき
  • ルーティングの最適化を考えると,世界的な状況と同様にISP網とアクセス網は一体で運用すべき。その点ではネイティブ方式が適切である
  • IPv6の迅速な普及の観点から,ネイティブ方式は網内だけの変更だけで導入できる利点がある

 なお同部会は,今回の意見公開と同時に,約款変更案に対する意見を再募集した。期限は7月13日まで。従来のパブリック・コメントの通例では,1回目の意見を受けて,NTTが意見を提出するケースが多いという。

 さらに7月28日に開かれる同部会の接続委員会において,1回目,2回目の意見を約款変更案にどう反映させるか審議する。そして8月6日に開かれる電気通信事業部会で最終的な答申案が決められる予定である。

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