写真●ナイキジャパンでマーケティング本部デジタルプロデューサーを務める津毛一仁氏(写真左)と,ビーコンコミュニケーションズでシニアプロデューサー/インテグレーテッドプランナーを務める柿並俊介氏(写真右)
写真●ナイキジャパンでマーケティング本部デジタルプロデューサーを務める津毛一仁氏(写真左)と,ビーコンコミュニケーションズでシニアプロデューサー/インテグレーテッドプランナーを務める柿並俊介氏(写真右)
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 「広告ではなく体験を提供して,消費者の自己表現をサポートする」---。ナイキの「NIKEiD」は,消費者がWeb上で自分だけのオリジナル・シューズをカスタマイズ発注できるサイトである。2009年6月30日に開催された「NET Marketing Forum 2009」で,NIKEiDのプロモーション戦略の当事者2名が,パネル・ディスカッションを開催した。NIKEiDの社会的背景を確認するとともに,実際に取り組んだプロモーションを振り返った。

 パネリストは,ナイキジャパンでプロモーションを担当する津毛一仁氏と,ナイキを手がける広告会社であるビーコンコミュニケーションズの柿並俊介氏の2人である(写真)。モデレーターは,日経ネットマーケティング誌副編集長の杉本昭彦が務めた。

消費者の自己表現にコミット

 冒頭でナイキの津毛氏は,オーダーメイド(カスタマイズ発注)を体験/実施できるNIKEiDが生まれた背景として,消費者を取り巻く社会環境の変革を指摘。ネットの浸透といった社会的背景の下,消費者が自己を主張する手段と機会が拡大しているという。

 従来であれば一方向の情報や製品に対して「私であれば,そうではない」と意見を持つだけで行動しなかったのに対し,現代では「自分をもっと主張したい」と積極的に行動するようになった,という。消費者は,自己主張の手段を得たのである。

 こうした消費者の変革に合わせ,消費者の自己表現をサポートすることがNIKEiDの意義とした。「NIKEiDとは,単なる優れた視覚表現やツールではなく,“あなたのオリジナル”というメッセージである」(津毛氏)。

ブログCMで少年の大胆さを呼び覚ます

 消費者にNIKEiDを体験してもらうためには認知度の向上だけでは不十分だった,と振り返るのは,柿並氏である。2006年にはYouTubeを利用した秋葉原のキャンペーンで認知度が上がったが,実際にサイトを利用するまでには至らなかった,と分析。これを解決するために実施した方策が,「少年の心」(柿並氏)に訴えかけるブログ・パーツである。

 消費者のブログに張るブログ・パーツとWebサイトの連動により,NIKEiDを履いてブログとブログを大胆に走りまわる少年を表現したという。「少年のように大胆になると,NIKEiDは楽しい。これを伝えたかった」(柿並氏)。消費者を大胆な気持ちにさせることができれば,カスタマイズという主体的な行動につながるというわけだ。

 少年の心に加えて,オーダーメイドによるNIKEiDを履いている自分に気づいてほしい,という自己顕示欲にも応えるようにしたという。具体的には,「NIKEiDを手にして街に踏み出すと,踏み出した世界/街が,自分の色に染まる」という現象をブログ・パーツ連動で映像化させた。自分だけのオリジナルなリアル(世界/街)を表現できるため,実際の街にもNIKEiDで踏み出そう,という気になる。

伝える広告から,伝わる体験へシフト

 パネルの最後には,CGM(消費者作成メディア)の台頭などを踏まえたプロモーション・チームのあり方について語られた。例えば,みずからが生活者としての体験をしてみて,生活者としての立場から発見できる主観的願望を拾い上げることが大切である,という。

 柿並氏は,「広告を伝えることはやめる。そうではなく,体験を作る」と,プロモーションの意識の変革を語った。この上で,「CGMによるダイレクトなフィードバックが,消費者とプロモーションとの生々しい良好な関係を作る」(柿並氏)と展望した。