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 みずほ証券が株誤発注による損失400億円超の賠償を求めて東京証券取引所を訴えた裁判の14回目の口頭弁論が、2009年6月12日午前10時から東京地方裁判所(写真)で開かれ、誤発注があった当時株式総務グループのリーダーだった東証の職員が初めて証人として出廷した。原告であるみずほ証券側の弁護士は「(東証の)ミスジャッジがこの事件を起こしたのではないか」など80分近くにわたって東証職員に尋問した。

 東証職員への証人尋問は東証側の弁護士からスタートした。東証職員は、東証側弁護士の質問に答える形で二つの証言をした。一つは、東証の売買システムの不具合が原因でみずほ証券が注文を取り消せないとは思いもつかなかった、ということ。もう一つはみずほ証券が「1円で61万株売り」という誤発注とは反対の買い注文を入れる前に売買停止を決めて、社内の承認手続きを進めようとしていた、ということだ。

 いずれも東証のこれまでの主張に沿っている。一つ目の不具合については、東証はその存在自体は認めているものの、不具合のない完ぺきなシステムは存在せず、したがって東証に「重過失」はないという立場だ。東証の取引参加者規程には「東証に故意または重過失がある場合を除き、取引参加者が東証の施設を利用することで被った損害を賠償しない」とある。二つ目の売買停止については、「東証が売買を停止すれば損失は防げた」というみずほ証券の主張への反論だ。売買停止するには時間が足りなかったということである。

 淡々と進んでいた証人尋問が一転したのは、みずほ側の弁護士による証人尋問が始まった10時30分過ぎのこと。みずほ側弁護士は東証職員が述べた二つの点について当日の経緯を秒単位で振り返りながら「本当か」と繰り返し質問した。

 不具合について、みずほ側弁護士は誤発注があった日の約1カ月前に株式売買システムが全面ダウンした事例を取り上げ、「わずか1カ月前に大きなシステム障害があったにもかかわらず、不具合とは思いもよらなかったのか」と聞いた。「東証自身が不具合のないシステムは存在しないと主張しているのに、不具合とは思わなかったのか」とも問いかけた。

 売買停止については、誤発注のあった当日にみずほ証券と東証の担当者が電話で交わした会話をテープレコーダーで流し、東証担当者の口から「売買停止」という言葉が出てこないことを示した上で、「本当に売買停止を考えていたのか」と強い口調で詰め寄った。

 みずほ側弁護士は「(東証の)ミスジャッジがこの事件を起こしたのではないか」とも質問した。東証職員は「そうは思わない」と答えた。

 次回15回目の口頭弁論は9月25日。ここで結審する可能性が高い。今日の証人尋問の結果を踏まえ、みずほ証券は改めて主張をまとめた準備書面を提出する。

 この裁判は05年12月にジェイコム株の誤発注により400億円超の損失を出したみずほ証券が、誤発注を取り消せなかったのはシステムの不具合が原因であるとして、東証に約415億円の損害賠償を求めたもの。06年12月に裁判が始まり、13回の口頭弁論を重ね、東京地裁は判決日をいったん09年2月27日に決めたが、同2月19日に判決を延期。証人尋問を追加で行うことを決めた。結審後の弁論再開で初の証人尋問ということもあり、開廷の1時間以上前から傍聴者の行列ができた。着席できずに傍聴できなかった人もいた。