金融庁は2009年6月11日、企業会計審議会企画調整部会を開催。2月4日に公開した「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」の草案に対するパブリックコメントを受けた結果を議論、公開した。草案では明確に言及していなかった強制適用の時期を具体的に例示したほか、段階適用の可能性を言及するなど、草案から内容の変更があった。最終的な決定時期を「2012年をメド」としたのは草案から変わっていない。

 草案から変わった点は大きく4つ。(1)強制適用の時期や適用方法で踏み込んだ記述を記載、(2)段階適用の可能性について言及、(3)任意適用の対象企業の条件の変更や時期の明確化、(4)IFRS適用時の個別財務諸表について言及、である。

2015年または16年に強制適用

 (1)の強制適用については、「2012年に強制適用を判断する場合には、2015年または2016年に適用開始」と具体的に記した。草案では「実務対応上必要かつ十分な準備期間(少なくとも3年間)を確保」としているのみだった。「2015年または2016年」と併記しているのは、(2)の段階適用をした場合を踏まえたためだ。草案では強制適用の場合、「一斉にIFRSに移行」としていたが、今回は「一斉適用か段階適用かは、強制適用を判断する場合に検討・適用する」とした。

 強制適用の時期を明記した点について金融庁は「パブリックコメントの結果、時期を明確にしてほしいとの意見が多かったため」と説明する。段階適用の可能性を検討したのも、パブリックコメントによるものだ。段階適用の場合、中間報告では「(IFRSに基づいて作成した財務諸表と日本基準に基づいた財務諸表の)並存期間は長くても3年間」としていることから、15年と16年の両方の時期を提示した。「段階適用の場合は、IFRSへの対応に十分なリソースを確保できる大規模な企業から適用することになるだろう」(金融庁)。

任意適用は「国際的な財務活動を行っている企業」のみ

 (3)の任意適用は対象企業となる要件を絞り「国際的な財務活動を行っている企業」のみとした。具体的には海外市場に上場していたり、海外で資金調達を行っている企業だ。草案では「市場において十分周知されている一定規模以上の企業」も任意適用ができる企業の条件に入っていた。同時に適用時期を「2010年3月期からが適当」とした。これまで時期について「10年3月期から」と例示していたものの「国際的な動向を見極めたうえで判断する必要がある」と決定を保留していた。

 任意適用の条件が変更になったのはパブリックコメントを受けた結果のほか、「草案を公開してから任意適用を実施する可能性がある企業の実態を調査した結果を反映したため」と金融庁は説明する。中間報告では「国際的な財務活動を行っている」以外に、任意適用の条件について詳細に「継続的に適正な財務諸表が作成・開示されている上場企業」「IFRSによる財務報告について適切な体制を整備」「IFRSに基づく社内の会計処理方法のマニュアル等を定め、有価証券報告書で開示しているなどの企業」となっている。

 金融庁は「これらの条件を満たす企業は、国際的な財務活動をしている企業に限られる。より実態に近い形に表記を修正しただけであり、任意適用の範囲を狭めようとしているわけではない」とする。金融庁は「条件を満たす企業は日本には十数社あり、初年度は任意適用の企業が数社程度、出るのではないか」とみる。「任意適用の段階でIFRSに基づいた財務諸表を作成するかは、企業の戦略や経営者の考え方による。2年目以降に準備が整えば、増えてくるだろう」(金融庁)。

 任意適用の企業数が数社程度になるのは、「過年度遡及」と呼ばれるIFRSのルールにも要因がある。過年度遡及は比較可能性を担保するため、適用初年度から2年間の財務諸表をIFRSに基づいて作成することを指す。3月期決算の企業が10年3月期にIFRSに基づいた財務諸表を提出する場合、08年3月期、09年3月期の財務諸表をIFRSで提出することになる。そのためには08年4月1日時点の貸借対照表をIFRSに基づいて用意しなければならない。「08年4月1日時点の貸借対照表の情報をIFRSに基づいて持っている企業は日本で数社」と金融庁は見る。

米国よりもコスト軽減を狙う

 (4)の個別財務諸表について、中間報告では「開示のあり方についても強制適用の是非を判断する際に、幅広い見地から検討を行う必要がある」とした。草案では開示のあり方について言及がなかった。「日本では今、個別財務諸表の開示が細かく、連結財務諸表では勘定科目などが丸められているケースがある」と金融庁は分析する。一方でIFRSを適用するのは連結財務諸表のみで、IFRSの考え方も連結を重視している。このことから個別財務諸表の作成の負担を軽減する狙いで文言が追加された。

 審議会ではこのほか、「非上場企業の任意適用の取り扱い」や「監査人の要件」などについての議論もあった。非上場企業に対する任意適用について「改めて検討する」としている点は草案と同じ。ただし「国際的な財務活動を行っている上場企業の子会社などは、IFRSに基づく連結財務諸表の作成のニーズがあるのではないか」との趣旨を追加。「任意適用のニーズは低い」との趣旨だった草案から変更した。

 IFRSに基づいた財務諸表を監査する監査人の要件については「教育・研修、業務の実施、審査等の方針設定等を含めた体制整備が必要」と監査人側の体制整備を訴えた。10年3月期から任意適用の企業も登場する。「IFRSに基づいた財務諸表を監査する人員を急に教育するのはムリだろうが、強制適用に向けて徐々に監査人を育成して欲しい」と金融庁は訴える。

 IFRSが強制適用になった場合、企業側に大きな負担を強いることがある。金融庁は「米国ではかなりコストがかかるとの試算もあるが、米国のようにはならないようにしたい」とする。加えてIFRSはこれまでから財務諸表の様式が変わるなど、監査人だけでなく経理部門や投資家など幅広い影響がある。これについて金融庁は「会計の本質を理解していれば、IFRSを理解することは難しくない。多少の混乱が起きるかもしれないが、会計にかかわる試験制度を全面的に見直す、教育の内容をすべて変えるといった事態にはならないだろう」としている。

 中間報告は今後、6月下旬に開催予定の企業会計審議会総会で正式に決定する。草案は4月6日まで公開し、24件の個人・団体から意見が寄せられていた。

■変更履歴
本文下から6段落目に「過年度訴求」とあるのは「過年度遡及」の誤りです。本文は訂正済みです。[2009/6/12 17:00]