移動体衛星通信事業を手がける日本デジコム(JDC)は2009年5月26日,スカパーJSATと子会社であるJSAT MOBILE Communications(JSAT MOBILE)を相手取り,5月21日に二つの民事訴訟を起こしたと発表した。スカパーJSATには損害賠償を,JSAT MOBILEには移動体衛星通信事業の営業行為差止請求の仮処分をそれぞれ求めている。訴訟理由は「スカパーJSATがJDCから得た企業内機密情報をJSAT MOBILEに開示したこと」および「JSAT MOBILEがその情報を不当に利用して移動体衛星通信事業に参入してきたこと」が不正競争防止法第2条第8項に該当するためだとしている。

 スカパーJSATがJDCから企業内機密情報を得るきっかけは,2007年6月にさかのぼる。インマルサットと呼ぶ衛星を利用した通話とデータ通信サービスを行うための免許を保有していたJDCは,ジェイサット(JSAT,現スカパーJSAT)から業務提携を求められていた。両社は提携に同意し,資本提携を行う前提で「出資検討に関する基本合意書」を締結した。そこには出資額を検討(デューデリジェンス)するために,JDCが経営内容に関する情報をJSATに開示する旨も記載されていた。JDCは基本合意書に基づき,JSATに対して財務情報や顧客リスト,各顧客との契約額,通信事業者として総務省に免許申請した際の提出書類といった機密情報を開示した。この開示により,JSATはJDCの企業内機密情報を知ることとなった。

 2007年10月に両社は最終合意書を締結する予定だったが,JSATは締結を延期し,2008年1月には資本提携はしないとJDCに通知した。その後,2008年8月にJSATは米Stratosの日本法人と合弁でJSAT MOBILEを設立し,インマルサット衛星を利用した移動体衛星通信事業に参入した。JSAT MOBILEは2009年2月に電気通信事業法に基づく電気通信事業者に登録し,電波法に基づく特定無線局の包括免許も交付され,インマルサット衛星を利用したサービスの提供を開始した。

 JDCは独特の方法で移動体衛星通信事業に必要な資格(電気通信事業者の登録,特定無線局の包括免許の取得)を取得している。JSATがJDCの企業内機密情報の中にあるこのノウハウをJSAT MOBILEに知らせたことで,JSAT MOBILEが事業に必要な資格を取得できたのではないかとJDCは考えている。また,同じく企業内機密情報に含まれる顧客情報や各顧客との契約額情報を利用して,JDCの既存顧客を奪っていると見ている。JDCはこれらの行為が不正競争防止法第2条第8項に該当すると考え,民事訴訟を起こした。