日本デジコムは2009年5月26日,JSAT MOBILE Communications(JSATモバイル)とスカパーJSATに対し5月21日付けで民事訴訟を起こしたと発表した。JSATモバイルに対しては,不正競争防止法に基づき,インマルサット移動体衛星通信サービスの営業行為を差し止める仮処分を請求する。スカパーJSATに対しては,5億円の損害賠償を請求する。
日本デジコムによると,同社は2006年,インマルサット衛星による移動体衛星通信サービスを提供するための免許を取得した。地上地球局などの電気通信設備を持たずに衛星通信事業の免許を取得するのは画期的なことで,独自のノウハウが必要だったという。
そこで移動体衛星通信事業に未参入のJSATが目を付け,日本デジコムにインマルサット通信サービスの卸売りと,共同事業のための業務提携を申し入れてきたという。緊密な業務提携のために資本参加も申し入れてきたが,日本デジコムはすでにNTTドコモと資本参加の交渉を開始しているため,JSATの資本参加については拒否したという。これに対しJSATは,JSAT自身がNTTドコモと緊密な関係にあるため,JSATとNTTドコモが共同で資本参加する形にしてはどうかと提案した。その結果,日本デジコムは両者の資本参加を受け入れるとともに,JSATとの業務提携でインマルサット通信サービスを提供することに合意した。
資本参加に伴うデューデリジェンス(出資対象として適正かどうかを確認するための財務や企業活動などに関する調査)が必要になる可能性があることから,日本デジコムはJSATおよびNTTドコモのそれぞれと秘密保持契約を結んだ。その上で,JSATから株価を算定する必要性からデューデリジェンスのための資料を提出してほしいとの要求があった。日本デジコムはこれに応じて,JSATに対してすべての企業内機密情報を開示したという。これに際し,資本提携を行うとの前提で「出資検討に関する基本合意書」を締結した。
ところが,JSATはデューデリジェンス調査が終わったあとも資本参加の最終合意をしようとしなかったという。さらに2008年1月には,理由も説明せず一方的に,日本デジコムへの資本参加はせず第4世代衛星のBGANインマルサット衛星通信サービスの共同事業も行わないと通告してきたという。その一方で,JSATは2008年8月,日本デジコムと長年パートナーだったストラトス社の子会社との間で合弁会社JSATモバイルを設立し,独自の事業参入を発表した。
こうした行為に対し,日本デジコムは警告書を2度送ったが,誠意ある回答が見られなかったという。
「開示したデューデリジェンスには,このビジネスの収益構造,当社の取引先や顧客の情報,売り上げや利益がすべて含まれていた。その情報をすべてわかったうえで,全く同じことを別の会社を立ててやろうというのは,不正競争防止法に著しく抵触している」(日本デジコムの竹井裕二取締役社長)。同氏によると,顧問弁護士と長期間検討した結果,JSATの行為は広義の不法行為,不正競争防止法に対する違法行為という結論に達し,今回の提訴に至ったという。
竹井社長は,訴訟の形をとった理由として「業界の方々もみな,JSATのやり方はおかしいと言っている。JSATにもそういう意見を持っている社員がいることも知っている。単に差し止めや賠償金が目的ではなく,大企業の不法行為がまかりとおってはいけないということを世に問いたいから」と語っている。