経団連 経済法規委員会企業会計部会の島崎憲明 部会長(住友商事代表取締役)
経団連 経済法規委員会企業会計部会の島崎憲明 部会長(住友商事代表取締役)
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 「金融危機の最大の原因は経営者のモラルにある。厳格な会計基準が危機の悪化を招いているという議論は大きな誤解だ」---。2009年5月15日に都内で開催された「国際会計基準フォーラム IFRSが企業に与える衝撃」の特別講演で、日本経済団体連合会(経団連)の経済法規委員会企業会計部会の島崎憲明・部会長(住友商事代表取締役)はこう強調した(写真)。

 島崎氏は住友商事で財務・会計、情報システム畑を歩み、この4月まで副社長執行役員を務めた。その後、経団連の部会長として国内当局や国際機関との調整活動に軸足を移している。同氏は豊富な企業実務の経験を基に、国際会計基準(IFRS)が日本企業に与える影響を解説した。一貫して強調したのが、IFRSが広まればこれまで以上に経営者のモラルが問われるという考え方だ。

 まず島崎氏は、金融危機の原因として経営者のモラルの低さを指摘した。「米国の“プロ経営者”らが業績に連動する報酬の獲得を狙って短期志向に走りすぎた。会計基準のスキを突いて、リスクがある資産を恣意的にバランスシートから外す経営者も少なくなかった」(島崎氏)

 これを踏まえて、「IFRSの『原則主義』についても、経営者による正しい理解と認識が不可欠だ」と強調した。原則主義とは、制度として細かい規則や数値基準は示さず、原理原則だけを提示する考え方である。このため経営者によって、基準を厳しく適用するか緩く適用するかで判断の幅が生じることもありうる。しかし島崎氏は、「経営者の意思で基準を甘く適用することもできるが、長期的には投資家を欺くことになり、許されることではない」と強調した。

 島崎氏は、日本の主要上場企業がIFRSへの移行を義務付けられること自体は不可避だという見方を示した。「(米国会計基準を持つ)米国の会計関係者はIFRSに対して慎重だったが、最近はIFRS適用を容認する発言が増えてきた。(日本会計基準を持つ)日本も国際的な流れにきちんと対応しなければならない」(島崎氏)

 一方で「J-SOX(日本版SOX法)導入で企業に過大なコストがかかった反省を踏まえ、IFRSでは効率的な導入が課題になる」と指摘する。J-SOXでは、何を目指せば良いかというベストプラクティスがないまま作業を進め、“文書化”の文量が膨らんだ企業が少なくなかった。これを踏まえて、「日本経団連として会員企業間でIFRS導入のベストプラクティスを共有したい」との考えを示した。