政府が推進する次世代スーパーコンピュータ・システムのプロジェクトからNECと日立製作所が撤退する(関連記事1関連記事2)。独立行政法人の理化学研究所はどのように考えているのか。NEC出身で、2006年に文部科学省を退官して理研の次世代スーパーコンピュータ開発実施本部のプロジェクト・リーダーに就任した渡辺貞氏に聞いた。(聞き手は島田昇=日経コンピュータ

NECと日立がプロジェクト半ばで撤退する。

 国家プロジェクトに参加しておいて、(途中で投げ出すのは)いかがなものかと思う。残念だ。NECの決断により同じく撤退することになった日立からも、残念だと聞いている。

 NECから製造撤退の打診を最初に受けたのは、ゴールデンウィーク前のこと。正直、非常に驚いた。国家レベルの重大な話なので何度も確認をしたが、NECの意思は変わらなかった。結果、5月13日に東京・丸の内の理研オフィスを訪れたNECの矢野薫社長から、正式に撤退の報告を受けた。

文科省や富士通との間ではどういう話になっているのか。

 文科省からはプロジェクトの貫徹は必須と指示されている。今後は富士通と話を重ね、当初の開発スケジュールに沿って実機の製造を予定通り実現させなければならない。

設計を抜本から見直す。当初のスケジュール通りに実現できるのか。

 富士通と検討を重ねないと分からないが、スケジュールを変更しない方策を探る。設計の見直しは1~2カ月くらいで終え、予定通り試作・評価、製造へ移行し、2012年の完成を目指す。

複合システムでなくても「京速計算機」の実現が可能であれば、そもそも複合システムの必要があったのか。

 様々な評価を重ねた上でスカラ部とベクトル部による複合システムを目指してきた。遺伝子解析など複雑なデータ処理に適したスカラ部と、大気の循環解析など連続的なデータ処理に適したベクトル部それぞれの特徴を活かしたシステム設計にすることで、幅広い研究分野に活用できる。最適なシステム設計を目指した結果だった。

1000億円強の国費を投じる。

 NECは今回の研究成果を有効活用していくことを表明している。理研としてもNECの研究成果を実機製造に活用したり、本件の直接的な目標ではないものの、要素技術などの研究成果を幅広い分野で活用する方針だ。税金の有効活用を最大化したい。