写真●パネルディスカッションの様子
写真●パネルディスカッションの様子
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 東京・秋葉原で2009年5月12日に開催されたITproビジネス・カンファレンス「経済危機時代の『事業継続』」では関連の4講演を実施(講演1講演2講演3講演4)。カンファレンスの最後に、これら講演の聴講者から寄せられた質問を踏まえて、Q&Aを兼ねたパネルディスカッションが行われた(写真)。参加者は講師である日本銀行の大山陽久氏(金融機構局 企画役)、リケンの藤井多加志氏(経営企画部 事業管理(BCP)室長)、住友スリーエムの金子剛一氏(特別顧問)、パナソニック コーポレート情報システム社の廣野俊弥氏(インフラソリューションビジネスユニット ビジネスユニット長)である。モデレータは日経コンピュータ副編集長の小原忍が務めた。

 聴講者から寄せられた質問で最も多かったのは、有事における「要員確保のポイント」「情報伝達の具体的な手法と手段」「社員のモラル維持の留意点」──の3点だった。

 要員確保のポイントについては、藤井氏が新潟県中越沖地震の被災復旧の経験を踏まえ、「まずは社員自身の安全確認。次いで家族、親戚の安全確認ができた上で出社できるようになる」と、企業視点での要員確保の前に、社員たちはそれぞれの家庭生活があると指摘。そのため、有事の際はそもそも、通常と異なる布陣を前提として対策に臨まなければならないとした。

 大山氏は重要業務の絞り込みを訴えた。何が重要業務であるかを決めることは取引先との兼ね合いもあり難しいが、これを実施して最重要業務の役割分担を明確にすれば、必要最低限の人材が見えてくる。そうすることで、彼ら彼女らとどのようにコンタクトを取るかなど事業継続に向けた行動計画を立てられると指摘した。金子氏も重要業務の絞り込みが欠かせないとし、製造業の立場から「社会的な要請から考えて何の製品が重要で、それらを製造するにはどのような体制でどういう人材が何人必要となるかが見えてくる」と解説。加えて、新型インフルエンザ対策については、その予防対策も副次的な要員確保につながるとした。

 廣野氏はデータセンター運営について、出社が必須のオペレーションと自宅作業が可能なオペレーションに分けて説明した。出社が必要な人材は「事前にチーム編成を柔軟に組むことが重要」と指摘。それを実現するためには、業務の標準化でより多くの社員が様々な業務をこなせるようになっておくことが必要とした。自宅作業が可能な業務であれば要員確保がよりしやすくなるため、こうしたバーチャルな業務環境の拡大は引き続き推進していく必要があるとした。

 緊急時の情報伝達については、金子氏が世界各地に拠点を持つ3Mグループの事例として、グローバルでの伝達をイントラネットで実現していると紹介。ただ、危機レベルが高い場合においては、電話やメールなどの緊急連絡網を通じ、上司が部下に直接連絡することも必要であるとした。廣野氏は複数の連絡手段を事前に確保しておくことが重要であるし、大山氏はメールのバックアップシステムの重要性を指摘した。一方、藤井氏は震災の際に現地で複数のホワイトボードで情報伝達と共有を目指した経験を紹介するとともに、「どこに情報を集中させるかを明確にしないと混乱が生じる」との視点も重要であると訴えた。

 出社拒否など社員のモラル崩壊を防ぐことについては、廣野氏が「日ごろから従業員の仕事に対する価値観を醸成しておくことが重要」とし、金子氏もこれに同調して「危機がきたときに考えても時すでに遅し」と事前の対策の必要性を指摘した。また、廣野氏は「出社することばかりを重視するのではなく、仕事と家庭を両立させるための一手段としてバーチャルな業務環境への移行も必要」との考えを示した。

 藤井氏は震災の際に出社率が高かった実例の理由として「憶測だが村社会のような同郷意識が働いたのではないか」とし、地域と密着していない組織がいかにモラルを維持するかはこれからの課題であるとした。大山氏はモラル維持を考える以前に、企業として従業員の安全衛生を保つための受け皿作りが重要であるとして、この問題について企業側の責任について言及し、パネルディスカッションを締めくくった。