東京・秋葉原で2009年5月12日に開催されたITproのビジネス・カンファレンス「経済危機時代の『事業継続』」で、住友スリーエムの特別顧問である金子剛一氏が「グローバル企業における新型インフルエンザ対策について」と題した講演を行った。
200カ国の海外販売拠点で危機対策に取り組む3Mグループの事例を紹介しつつ、新型インフルエンザに代表される危機対策には、「正しい知識の周知と的確な組織の構築、何よりも経営トップによる強いリーダーシップが必要である」(金子氏)と訴えた。
金子氏は冒頭、同社の危機対策を語る上で、「重要なことは経営理念」と強調。同社の経営理念とは、「3M」ブランドを冠するヘルスケア製品などに代表される多種多様な商品が、優れた品質と価値を提供し、顧客を満足させることである。これは親会社の米3M社以下、世界の71子会社すべてで共通している。一方で「企業は人なり」(金子氏)と個人の尊厳と価値を尊重する人事の基本原則も踏まえ、こうした同社の経営理念をまっとうするためにこそ、危機対策が必須であり、欠かせないとした。
3Mグループでは危機対策においても経営理念と人事の基本原則と同様に、グループ内での基本方針を共通化し、これを世界各国の慣習や法規制などに合わせてローカライズしている。基本方針は「企業として責任を持って、感染の拡大を最小限に抑え、家族の協力のもと従業員の安全を図りつつ、業務を継続し、お客様に必要不可欠な製品とサービスを提供する。また、政府、公共機関の要請に進んで協力する」である。危機の脅威レベルについては、3Mで独自の統一指標を設けて世界各国で共通化。例えば、新型インフルエンザの発生地となるメキシコではレベル2、日本はレベル0というようにし、海外出張など各国同士の情報共有や連携で支障をきたさないようにしている。
2005年に米3M社が策定した「パンデミック対策準備ガイド」に基づき、グローバル危機管理チームが構成され、これが世界4地域で展開されている。住友スリーエムはアジア・パシフィック地域に属しており、今回の新型インフルエンザに対しては、「新型インフルエンザ対策本部」を設置。ここに同社の各事業部の担当者が参加し、全社的な危機対策を推進している。
ここでは大きく疾病予防対策と事業継続の2つの目的を遂行することを目標としている。これを実現するためそれぞれ、チェックリストを用意し、全社横断的な危機管理チームを機能させるための組織作り、各チームメンバーに期待される役割の明確化を行っている。
疾病予防対策では、最終的な目標を国内で予想される感染率の5分の1にまで抑えることに設定。そのため、インターネットを通じた社員教育、社員の家庭への危機対策冊子の配布、社員向けイントラネットでの情報提供やセミナーなどを行っている。それぞれの対策は具体的な行動にまで落とし込んで詳細に明文化されている。例えば、「正しい知識に基づいた予防対策ができていなければ無意味」(金子氏)として、正しい手洗いやマスクのつけ方についても詳細な指示を行っており、その順守を求めている。一方、会社としては医薬品の調達、備蓄について、危機レベルごとにどれだけ確保すべきかを詳細に決めていたり、海外出張者がそれぞれの出張先の国で統一したルールに基づき、医療サポートなどが受けられるシステムを作ったりしている。
事業継続計画については、経営理念に基づき、社会的に最も求められていると考えられる20~30製品を選定。各事業部の責任者を交えて決めた最重要製品の製造と提供という目標を立て、これを行う上で必要となる知識、スキル、資格を持つ人材の確保、最重要製品の原材料の代替購入計画などを重要事項としている。社内はもちろん、取引先との情報共有も含め、有事の際の製品群とそれらを製造する組織を「見える化しておくことが必要」(金子氏)とした。
最後に、新型ウイルス対策における疾病予防策と事業継続計画を行う上で重要なこととして、経営トップによるリーダーシップ、実現するための組織の確立、正しい知識と的確な事業部支援、部門責任者への動機付けを挙げた。そして「まずは防護用具の早期備蓄が必要なので、各社の担当者は今からでも遅くないのでこれから始めてほしい」(金子氏)と締めくくった。