写真1●野村総合研究所 コンサルティング事業本部金融戦略コンサルティング部上級コンサルタント 安岡寛道氏
写真1●野村総合研究所 コンサルティング事業本部金融戦略コンサルティング部上級コンサルタント 安岡寛道氏
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 「ポイント・サービスによるマーケティングの最前線はライフログの活用へとたどり着いた。しかし1社単独では限界があり,顧客を企業間で連携することがカギになる」---野村総合研究所(NRI)コンサルティング事業本部金融戦略コンサルティング部上級コンサルタント 安岡寛道氏(写真1)は2009年4月23日,ITproカンファレンス:ライフログ・サミットでこう指摘した。

 安岡氏は「ポイントによるライフログ活用ビジネスの最前線」と題して講演した。NRIの調査によれば,ポイントやマイレージの発行額は,2006年度の6654億円から2012年度には7874億円に拡大が見込まれている。またポイントがEdyやSuica,JAL ICクーポンなどの電子マネーに変換されることも多くなってきている。

ポイント・サービスは企業群を結びつけるツールになる

 NRIの調査によれば,ポイントがつくかどうかで購入する商品やサービスを変える消費者は4割,ポイントがつくのであれば多少高くとも購入する消費者は2割,ポイントにより購入する店舗を選ぶ人は3割いるという。

 ポイントは,値引きと異なり,次回の購買の誘発につながり,顧客の行動情報を得ることができる。しかし,現状ではその情報がマーケティングに十分に活用されていないと安岡氏は言う。「ポイントの基盤となるIDの有効活用が,CRM(顧客管理システム)の業務フローを『価値あるもの』変革する」(安岡氏)。

 そのためには1社単独ではなく,各社が連携していく必要がある。ある紳士服チェーンは,購入に対し航空会社のマイルを付与。「顧客層が一致しており,顧客を相互に送り込むことができる。互いにWin-Winの関係」(安岡氏)。例えばJR東日本と航空会社,家電量販店ビックカメラの提携では,顧客の動線の一致を軸に提携した。航空会社のマイルや量販店のポイントをSuicaに入金できる仕組みだ。「ポイントはマーケティング・ツールから,企業産業群を結びつけるツールへと進化している」と安岡氏は指摘する。

ライフログがマーケティングの最前線に

 さらにマーケティングの深化により,消費者(個人顧客)の作り出すライフログ(属性と行動情報)が重要な素材となっているという。マーケティングは市場全体のデータに基づくものから,自社顧客のデータに基づくものへ,さらに個人の自社データに基づくものへと高度化してきた。最前線にあるのがライフログだ。

 ライフログ・マーケティングとは,「定性データの経年変化も取り込み,“変化”を察知できるマーケティングを行うこと」と安岡氏は定義する。基盤となるIDの上に統合した属性情報やマネー情報など多様な情報を活用しビジネスを創出すること,と表現することもできる。

 安岡氏はポイントを活用したアライアンスの形として,イネーブラー(後方支援)型企業とフロント(顧客基盤を持つ)企業,フロント型企業同士の二つの形態をあげる。前者の例としてはスルガ銀行とANAの提携がある。後者の例としてはJALカード,Viewカード,Suicaカードの提携,および楽天とNTTコミュニケーションズ,TSUTAYAの提携の例がある。

OpenIDが企業連携の軸に

 将来の提携の形として,安岡氏はOpenIDによる企業連携の可能性を提示した。インターネットの共通IDとして普及しつつあるOpenIDを活用すれば,顧客はサイトごとに登録することなくログインでき,企業はユーザーの属性情報を共同で活用できるようになる,と安岡氏は将来像を描いた。