富士フイルムコンピューターシステムの柴田英樹氏(システム事業部 ITインフラ部 部長)
富士フイルムコンピューターシステムの柴田英樹氏(システム事業部 ITインフラ部 部長)
[画像のクリックで拡大表示]

 「サーバーの運用コストは半減できた。今後はさらなる運用コスト削減に取り組んでいく」。富士フイルムコンピューターシステムの柴田英樹氏(システム事業部 ITインフラ部 部長)は,2009年4月14日に東京都内で開催された「仮想化フォーラム2009」で,富士フイルムが2007年から取り組んでいる基幹システムのサーバー統合の成果を,こう説明した。

 富士フイルムでは現在,サーバー運用コストの削減や,IT資産活用の効率化などを狙って,仮想化技術を使ったサーバー統合に取り組んでいる。2008年度から2010年度までの3年計画で,同社の基幹システムのサーバー約300台を仮想化技術を使って統合する。新規に導入するサーバー約150台も,同様に仮想化環境上に構築する計画だ。

 柴田氏は「2004年度から2007年度の4年間で,サーバー運用コストは4倍に跳ね上がっていた」と,サーバー統合に乗り出した理由を語る。ピーク時を想定したシステムのためIT資源の利用効率が低いことや,ハードウエアの保守切れに伴って,ソフトウエアのバージョンアップを余儀なくされることも大きな課題だった。

 仮想化技術を採用することで,「OSを含むソフトをハードウエアから切り離し,ハード資産を柔軟に割り当てることができるので,運用設計の負荷やシステム・ライフサイクルのリスクを軽減できる」(柴田氏)。加えて,サーバーの性能向上や仮想化技術の進歩・低価格化,ノウハウの蓄積などにより「仮想化導入のハードルが非常に低くなっている」(同)ことも,仮想化技術採用の大きな要因である。

12パターンのサーバーで移行検証を実施

 サーバー統合の実現に当たって問題だったのは,数ある基幹サーバーのうち,どのサーバーを仮想化できるか明確な指針がなく,既存システムの移行ノウハウも手探り状態だったことだ。「2007年にサーバー統合の検討を始めた当時,仮想化の事例はほとんどがWebシステムや開発機などに限定されており,基幹系のシステムを仮想化する例は見当たらなかった」(柴田氏)。

 そこで柴田氏らが注力したのは,「どのサーバーを仮想化するのか」という基準作りである。具体的には,(1)可用性要件,(2)性能要件,(3)アプリケーションのサポート,(4)仮想化技術の制限──の4項目について,どういう条件の場合には仮想化するのかの方針を一つひとつ策定していったという。

 柴田氏は,既存システムを仮想化環境へ移行するときの手順やノウハウの重要性にも言及。「自動インストーラや自動設定機能があっても,必ずしもうまく動作するとは限らない。自分たちで実際に検証作業を行うことが不可欠だ」(柴田氏)。同社では,対象となるシステムのハードウエアやOS,アプリケーションなどの組み合わせごとに12種類の典型的なパターンを選定し,実際に移行手順の検証を実施した。

“多能工”を育成する

 サーバー統合による効果はさまざまだ。まず,IT資源の利用効率は大きく向上した。CPUやメモリーの使用率は,統合前の20~30%から,80%に高まった。また,システム基盤を短期間で構築できるので,新サービス導入にかかる工期は,従来の1カ月から,2週間に半減できたという。ハードウエアのリース費や保守費,維持管理のための人件費からなるサーバー運用コストも従来に比べて半減し,年間3億円削減できる見通しだ。

 富士フイルムは今後,より高い可用性が必要とされるクラスタ構成のサーバーの仮想化や,ディスク入出力/ネットワークの帯域制御による性能向上などに取り組み,仮想化技術によるサーバー統合の効果をさらに高めていく計画だ。そのためには,社内のエンジニアのスキルアップも重要になる。柴田氏は「サーバー技術だけでなく,ストレージやネットワーク設計などの技術を備えた“多能工化”を進める」と意気込みを語り,講演を締めくくった。