「FTTH技術は日本の牙城のようだが,それでは誰が世界に売り込んでいるのか」,「官庁系の研究会では,AV機器メーカーが国際化の手本のように言われていたが,全然そんなことはないのではないか」,「メーカーの数が多すぎる。開発リソースが,多くの会社に分散していることが最大の課題だ」,「結局はマネジメントの問題。“総合”をうたう企業のトップに,個別事業の判断ができるわけがない」,「監督官庁は競争条件の整備だけに注目すべき」「“適正価格”と軽々しく言うものではない。適正価格は,市場が決めるものである」・・・。

 2009年4月10日に設立発表会があった“超ガラパゴス研究会”(正式名称は,IT国際競争力研究会)は,初回の会合から熱い議論が繰り広げられた。2人の委員が提示した「通信業界の進化」と「電機産業の本質的課題」という2テーマだけで当初の予定時間を大幅に超過し,残る1委員の発表が次回に延期になったほどだ。

 今回特に盛り上がったのが,国際的にみるとまさに“ガラパゴス”と言える,日本におけるADSLの普及やブロードバンド料金の低廉化をどう捉えるか,というテーマ。外部からの評価として,ある委員は「日本のブロードバンドが安くなったのは“怪我の功名”だった」と報告した。NTTがADSLに消極的だったことがADSLによる価格破壊を誘発し,結果としてNTTはFTTHに当初目論んでいた価格をつけられなかった,という理屈である。

 その問題提起を受けて,通信事業の関係者からは「NTTはADSLを過渡的な技術と位置付けていて,それ自体は正しい判断だったのではないか」,「NTTも1996年に,FTTHにより“10Mビット/秒を月額1万円で提供する”という,当時としては画期的な目標(メガメディア構想)を打ち出していた」,「仮に,FTTHを一気にやれば,NTTの思惑通りにできたかもしれない。10年は誰も手を出してこないという考えがいけなかった」,「孫社長も,ほかの会社が破格的な価格に対抗してくることは予想していなかったのではないか」といった意見が次々と飛び出す。関連してFTTHの話題に移ったときに出たのが,冒頭の「FTTHは誰が売り込んでいるのか」という疑問である。

 FTTHの国際化については,周辺情報という形で,AT&Tが自社内に保有していた研究開発部門を別会社(ルーセント・テクノロジーズ)として独立させた米国の事情などが紹介された。分社化後は,ルーセントが国際事業を展開している。しかし,国内のFTTH技術を「誰が世界に売り込んでいるのか」に正対した回答は得られず,それこそが日本の通信産業が共通に抱える問題ではないかと思わせる結果になった。

 同研究会の最大の特徴は,各委員が個人として参加しており,所属団体の“利益代表”ではないことである。各委員は個人の経験や知見を持ち寄って,2009年中に打ち出す提言に向けた共通認識とする。研究会全体としては,日本の産業全体に漂う「日本はガラパゴスだから国際化は無理」という雰囲気を変えることを目指しているようだ。

 次回の開催は5月14日。コンテンツ分野の国際競争力と,NTTが推進するNGN(次世代ネットワーク)をテーマに議論される予定になっている。