写真●TISの並河祐貴氏
写真●TISの並河祐貴氏
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 「自社もデータセンターを持っている。しかし,それを使うとするとサービス開始までに時間がかかる。競合のサービスも出てきており,乗り遅れないようにするには,Amazon EC2を利用するのがよいと考えた」。

 4月10日に都内で開催されたITproカンファレンス「徹底理解『Amazonクラウドサービス』」で,TISの並河祐貴氏はAmazon EC2の魅力をこのように語った(写真)。並河氏はTISの社内ベンチャー SonicGardenに所属する技術者で,2008年12月に企業向けSNSのSaaS「SKIPaaS」の提供を開始した。SKIPaaSは,Amazon EC2/S3上で業務用アプリケーションを稼働させた先進事例だ。

 迅速なサービスを展開できるだけでなく,初期投資がほとんど必要ない,APIを通じて操作でき自由度が高いなど,Amazon EC2/S3のメリットはいろいろある。だが,商用SaaSの基盤としてAmazon EC2/S3を採用している事例は国内ではまだほとんどない。参照できるノウハウの蓄積はなかったとする。このため、ユーザーに受け入れられるサービスを提供するために,いくつか工夫を凝らす必要があった。

 例えば,レスポンスの問題。「Amazonの米国拠点を使う場合,日本とのラウンド・トリップ・タイム(往復遅延時間)は180~210ミリ秒。欧州拠点を使う場合だと280~290ミリ秒かかる。ページ内で参照するファイルが多いと体感速度が低下する」(並河氏)。そこで,静的コンテンツを配信するサーバーを国内に併設して,レスポンスを向上させるアーキテクチャを考えた。

 スケーリングを容易にできるような構成も考えた。システム領域は仮想マシンイメージのAMI(Amazon Machine Image)を利用して,S3にバックアップを取得しておく。データ領域は,仮想外付けハードディスクのEBS(Elastic Block Storage)に配置する。こうしておけば,EC2の仮想サーバーをスケールアップする際に,S3からAMIをリカバリし,EBSのボリュームをマウントするだけで済む。仮想サーバーがダウンしても,データの損失を防げるというメリットもある。

 並河氏は,運用する中で実際に遭遇したEC2の障害にも触れた。「2009年1月に5分程度,同3月に100分程度停止した」(並河氏)。前者は自動リブートにより,5分程度で復旧した。後者のときはサポート・スタッフによるリブートで復旧した。いずれも1インスタンスのみの障害で,データの損失はなかった。

 障害の情報は,監視サービス「AWS Service Health Dashboard」やコミュニティ・サイト「AWS Developer Community Forum」などで確認できるという。「AWS Premium Support」というサポート・サービスもあるが,こちらは有償だという。