日経BP社は2009年4月6日,「第19回日経BP技術賞」の表彰式を開催した。大賞および,電子,情報通信,機械システム,建設,医療・バイオ,エコロジーの6分野で計11の部門賞をそれぞれ表彰。情報通信部門賞では,人体を媒体とする通信技術「レッドタクトン(RedTacton)」(開発はNTTとNTTエレクトロニクス)と,拡張現実(AR)のソフトウエア開発キット「ARToolKit」(同奈良先端科学技術大学院大学の加藤博一教授)の2技術が受賞した(写真1写真2)。

写真1●レッドタクトンを開発したNTT/NTTエレクトロニクスを代表して登壇したNTT マイクロシステムインテグレーション研究所 スマートデバイス研究部の門勇一部長
写真1●レッドタクトンを開発したNTT/NTTエレクトロニクスを代表して登壇したNTT マイクロシステムインテグレーション研究所 スマートデバイス研究部の門勇一部長
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写真2●ARToolKitを開発・公開した奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報処理学専攻 インタラクティブメディア設計学講座の加藤博一教授
写真2●ARToolKitを開発・公開した奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報処理学専攻 インタラクティブメディア設計学講座の加藤博一教授
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写真3●人体通信技術「レッドタクトン(RedTacton)」(開発はNTTとNTTエレクトロニクス)のロードマップ
写真3●人体通信技術「レッドタクトン(RedTacton)」(開発はNTTとNTTエレクトロニクス)のロードマップ
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 RedTactonは,人体表面に誘起される電界によって信号を伝える通信技術。通信速度は最大230kビット/秒で,送信機(ICカードなど)を身に付けた人が受信機を取り付けたドア・ノブに手を触れるだけで認証するような入退室管理システムを実現できる。2005年に基礎技術が確立(関連記事)。それから3年を経た2008年6月に実用化(関連記事)され,NTTエレクトロニクスが同年8月に入退出ソリューション「Firmo」として製品化した(写真3関連記事)。

 代表して賞状を受け取ったNTT マイクロシステムインテグレーション研究所 スマートデバイス研究部の門勇一部長は「実は(学会誌の)IEEE Spectrumの2006年1月号で,『Technology Winners & Losers』という特集の“Loser”にも選ばれている。アプリケーション不在や信頼性の不安が評価の理由だったが,その当時既に見えていた解決策を公表できず,じくじたる思いがあった。それだけに今回の受賞でその思いを払拭できた」と喜びを語る。

写真4●拡張現実を実現するアプリケーション開発のためのC言語ライブラリ「ARToolKit」の概要
写真4●拡張現実を実現するアプリケーション開発のためのC言語ライブラリ「ARToolKit」の概要
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 もう一つの「ARToolKit」は,拡張現実を実現するアプリケーション開発のためのC言語ライブラリ(写真4関連記事)。奈良先端科学技術大学院大学の加藤博一教授が1998年に開発したもので,実社会の映像にデジタル情報を重ね合わせるユーザー・インタフェース技術「拡張現実」(AR)を実現するアプリケーション開発向けのオープンソースのライブラリである。ニコニコ動画やユーチューブ(YouTube)に投稿されている動画のARアプリケーションの多くに「ARToolKit」が使われ,エンドユーザー発のARアプリケーションのゆりかごとなっている(関連記事)。

 授賞式に出席した加藤教授は「ARToolKitを開発・公開してから10年。すぐに動かせるうえに実用的な性能が出るARライブラリとして“使いやすさ”が評価されたと感じている。日本語マニュアルやC#,Flashといった派生版(関連記事)の動きがあるのは喜ばしいこと。技術とアプリケーションの間のパスにとぼしい面はあるが,技術面でのリーダーシップはこれからも維持していきたい」と開発者としての抱負を語る。

大賞は「スクリュー式の小型蒸気発電機」に

写真5●大賞を受賞した神戸製鋼所の「スクリュー式の小型蒸気発電機」の特徴
写真5●大賞を受賞した神戸製鋼所の「スクリュー式の小型蒸気発電機」の特徴
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 日経BP技術賞は,電子,情報通信,機械システム,建設,医療・バイオ,エコロジーの各分野で,産業や社会に大きなインパクトをもたらす優れた国産技術を毎年1回,表彰するもの。1991年の創設で,2009年は19回目にあたる。

 2009年の大賞には,松隈正樹・神戸製鋼所 機械エンジニアリングカンパニー 圧縮機事業部 汎用圧縮機工場 技術総括部長らの「スクリュー式の小型蒸気発電機」を選出(写真5)。日経BP社創立40周年を記念して過去28件の中から最も社会と産業に貢献した,あるいは貢献すると考えられる技術や製品を読者投票で選ぶ「日経BP技術賞・読者大賞」は,2008年大賞受賞の京都大学 山中伸弥研究室「ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)株の樹立」が受賞した(大賞・各部門賞の詳細は,2009年「日経BP技術賞」のページを参照)。