米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が「米IBMと米サン・マイクロシステムズが買収交渉に入った」と報じたのは、2009年3月18日未明(米国時間)のこと(既報:IBMがサンと買収交渉、米紙が報道)。IBM、サンともコメントは差し控えており、交渉の先行きは見えない。発信元のWSJ紙は交渉がまとまった場合、今週中にも正式に発表があると述べる。IBMによるサン買収が実現した場合に、IT業界の勢力図がどう変化するのかシミュレートしよう。

 まずは売上高である。2008年度にIT企業として最も売り上げが大きかったのは、米ヒューレット・パッカード(HP)。HPは2008年8月、大手ITサービス企業のEDSを139億ドルで買収しており、サービスの売上高を大きく伸ばした。IBMとサンの2008年度売上高を合算しても、HPには届かない(表1)。もっともHPは、パソコンやプリンタ、デジタルカメラといった一般消費者向け事業も手がけている。

表1●HP、IBM、サンの売上高(2008年度)
表1●HP、IBM、サンの売上高(2008年度)

 サーバー市場のシェアは、IBMがHPを引き離す(図1)。米IDCの調査によれば、2008年の世界サーバー市場規模は533億3200万ドル。IBMのシェアは1位の31.9%、サンは4位の10.1%であり、両社を合わせるとシェアは42%に達する。2位のHP(29.5%)を大きく上回る。

図1●2008年における世界サーバー市場シェア(米IDC調べ)
図1●2008年における世界サーバー市場シェア(米IDC調べ)

 サンの売り上げは、サーバーやストレージといったハードウエア販売が主体の「プロダクト」が62.1%を占める(図2)。サンが扱うソフトウエアはオープンソースが主体で、同社のソフトウエア売り上げは2008年度決算で6億4400万ドル(全社売上高に占める割合は4.6%)に過ぎない。サービスやソフトウエアの売り上げが全体の8割を占めるIBMとは対照的だ。IBMによるサン買収が実現した場合、IBMの売り上げに占めるハードウエアの割合が、久しぶりに上昇する。

図2●各社の売り上げ構成
図2●各社の売り上げ構成

 WSJ紙などの報道によれば、今回の買収交渉はサン側から持ちかけたものだという。昨年秋のリーマンショック以降、サンの業績が急激に悪化している(図3)。サンの筆頭株主は、投資会社の米サウスイースタン・アセット・マネジメント。他にも米コールバーグ・クラビス・ロバーツや米リレーショナル・インベスターズなどが大株主として名を連ねる。2008年12月にはサンの取締役会に、サウスイースタン・アセット・マネジメントが推薦する2人の社外取締役が加わった(関連記事:Sun,社外取締役2人の追加で筆頭株主と合意)。今回の買収交渉は、これら大株主の意向に基づく可能性がある。

図3●急速に悪化するサンの業績
図3●急速に悪化するサンの業績

 仮に買収が成立した場合、日本メーカーにどのような影響があるか(図4)。サンと最も深い関係のあるメーカーは、サンとSPARCサーバーを共同開発する富士通だ。NECや日立製作所もサンからUNIXサーバーの供給を受ける。NECの場合はHP、日立はHPやIBMとも提携関係にあるが、富士通が提携するのはサン1社のみ。もしサンがIBMに買収された場合、富士通のサーバー戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。

図4●米国サーバーメーカーと国産メーカーの関係
図4●米国サーバーメーカーと国産メーカーの関係