グリーンIT推進協議会の朽網道徳氏
グリーンIT推進協議会の朽網道徳氏
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 「グリーンITの2本柱は,IT製品の省エネ化と,ITを活用した社会全体の省エネ化である」――。2009年3月13日,「グリーンITフォーラム」の特別講演にグリーンIT推進協議会の朽網道徳氏(写真)が登壇。朽網氏が委員長を務める同協議会 調査分析委員会の活動を紹介した。

 グリーンIT推進協議会は,経済産業省が提唱する「グリーンITイニシアティブ」の具体的な取り組みを推進するために2008年2月に発足した。グリーンITの啓発活動を行う「普及啓発委員会」,技術ロードマップを策定する「技術策定委員会」,環境負荷低減の定量的な調査・分析などを行う「調査分析委員会」の3つの組織からなる。

 朽網氏は「グリーンITの取り組みには『OF IT』と『BY IT』の2つがある」と説明する。OF IT(Green of IT)とは,サーバーやストレージ,エアコンや照明など,IT・エレクトロニクス機器自体のCO2排出量を削減すること。BY IT(Green by IT)は,TV会議システムや電子ペーパーなどのITを導入することで,社会全体のCO2排出量を削減することである。朽網氏ら調査分析委員会のミッションは,OF ITとBY ITの省エネ効果の評価指標(モノサシ)をそれぞれ確立し,グリーンIT全体の中長期的な効果を予測することだ。

 調査分析委員会が打ち出したIT・エレクトロニクス機器自体の省エネ指標は,「機器の消費電力/機器の性能」というもの。「IT・エレクトロニクス機器は多様なので一律の評価指標を作ることはできない」(朽網氏)。そのため,省エネ指標の分母の「機器の性能」は,省エネ法に基づくトップランナー基準の分類を参考に,製品を特徴付ける機能のうちエネルギー消費量に影響があるものを抽出する。

 たとえば,テレビでは画面サイズ,PCではCPU処理性能,ストレージでは記憶容量がそれにあたる。この指標を使って旧製品(基準年の製品)と新製品(省エネ製品)を比較。差分が省エネ製品のもたらす省エネ効果となる。こうして算出された機器1台あたりの省エネ効果に,市場成長性や製品シェアから計算された将来の予想普及数を乗じて,その省エネ製品全体が将来もたらすCO2削減効果を予測する。

 一方,「BY ITの評価指標は共通化できる」(朽網氏)。調査分析委員会では,IT製品導入によるCO2排出削減量をBY ITの省エネ指標としている。電子ペーパーやeラーニングの導入による紙使用量の減少,TV会議やテレワークによる人の移動量の減少を,CO2排出削減量に換算して効果を測定する。BY ITの将来のCO2削減効果は,IT製品1台あたりの導入効果に将来の予想普及数を乗じて算出する。「予測はあくまで予測でしかない。グリーンITへの関心が高まり導入が拡大すれば効果は変わってくる」(朽網氏)。

 調査分析委員会が最も注力しているのは,データセンターの省エネ指標の確立だ。「将来的に電力消費量の大幅な増加が見込まれる分野であり,専用の省エネ指標が必要だ」(朽網氏)。現在,データセンターの省エネ指標として,PUE(データセンター全体の消費電力/IT機器の消費電力)が広く採用されている。

 しかし朽網氏は,「PUEは,照明や空調など,データセンターのファシリティしか評価していない」と指摘する。ファシリティの省エネ性能だけでなく,IT機器の省エネ性能,太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーをどれだけ活用しているか,廃熱の再利用率,仮想化技術を使った運用面での省エネ化なども評価できる新しい指標が必要だというのである。

 調査分析委員会が検討しているのは「データセンター電力効率指標(DPPE=Datacenter Performance Per Energy)」という指標だ。データセンター電力効率指標は,(1)有効活用電力効率,(2)IT機器電力効率,(3)ファシリティ電力効率,(4)グリーン電力効率の4つの要素を含んだ関数で表わされる。

 (1)有効活用電力効率は,潜在的なデータセンターの能力のうち,どの程度利用できているかを表す。(2)IT機器電力効率は,データセンターを構成するIT機器の総能力をIT機器の総消費電力で割った値(データセンター能力/IT機器の消費電力)である。(3)ファシリティ電力効率は,データセンターの総消費電力とIT機器の消費電力との割合(IT機器の消費電力/データセンターの総消費電力)を示す指標で,前述のPUEの逆数になる。(4)グリーン電力効率は,データセンター内での自然エネルギーの活用率を表す([データセンターの総消費電力]/[データセンターの総消費電力-グリーン電力])。

 最後に朽網氏は,ポスト京都(議定書)の中期目標を策定するにあたり「これまでの業界ごとのCO2削減ポテンシャルの検討に加えて,グリーンIT,特にBY ITの業界横断的な効果も考慮する必要がある」と述べた。