写真1●左から,アスカラボの角田哲也氏,NECマグナスコミュニケーションズの山崎順一氏,大日本印刷のもたい五郎氏,日本技芸の濱野智史氏
写真1●左から,アスカラボの角田哲也氏,NECマグナスコミュニケーションズの山崎順一氏,大日本印刷のもたい五郎氏,日本技芸の濱野智史氏
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 「認知度は高まりつつある。真の普及には,携帯電話端末の整備やリッチなグラフィックス表示などがカギになる」---。2009年2月26日に開催したITproビジネス・カンファレンス「AR(拡張現実)ビジネスの最前線」において,ARの商業化に向けたパネル・ディスカッションが開催された(写真1)。

 パネラーには,AR研究/コンテンツ制作の立場からアスカラボの角田哲也氏,携帯電話向けアプリ開発の立場からNECマグナスコミュニケーションズの山崎順一氏,AR応用例を開発する立場から大日本印刷(DNP)のもたい五郎氏,メディア論の見地から日本技芸の濱野智史氏の4人が参加した。司会は日経コミュニケーション編集の武部健一が務めた。

 討論に先立ち,司会の武部がARのポイントをおさらいした。まず,ARという技術は米Intelが重要技術と位置付けるなど,確実に注目されている点を指摘。さらに,AR市場の分布として,QRコードの延長や,位置連動の延長など,マーカー認識型と非マーカー認識型の双方にビジネス・チャンスが広がっている点を紹介した。

 武部はまた,ARの今後の展開についてよく言われている説に言及。現在は(1)医療・建設など専門家向けの特定用途や(2)カタログやナビなどへの“対モノ”への応用が主流だが,(3)人間関係の構築や把握など社会的なコミュニケーションにARを使う“ソーシャルAR”の時代がやってくる,とした。

まずは認知度の高まりと普及へと舵をとれ

 パネル討論ではまず,ビジネスにおける期待と課題についての議論が起こった。アスカラボの角田氏は始めに,ARの認知度の低さを指摘。NECマグナスコミュニケーションズの山崎氏も,携帯電話とGPSが重要であるとした上で,「ARを利用するための携帯端末が万人に行き渡っていない現在では,ビジネスを描く段階にはない」とした。

 一方,DNPのもたい氏は,iPhoneアプリケーション「セカイカメラ」のブレイクやマスコミのAR記事など,ARの認知度が高まる要素が徐々に増えつつある点に触れ,期待を寄せた。「見て,体験してもらうことが大切だ」(関連記事)。

 日本技芸の濱野氏は,携帯電話やVHSが普及した理由が「みんなが使えば価値が出る」という経済理論である点に触れ,ARも同じであるとした。特に,人間関係をARで補完できるようになり,みんなが使い始めると一気に広がると見ている。

 濱野氏は,典型的で理想的なARの活用方法として,いまここでパネル会場の客席を写して,顔認識により,知り合いがどこに座っているかといったことが分かったり,個々の来場者の属性などがテキスト情報としてオーバーラップすると便利だとした。

 顔認識の場合として,濱野氏は社会の中でカメラを向けることの倫理観などに触れた上で,駅では動きのあるデジタル・サイネージが禁止されているように,携帯電話を禁止する小中学校があるように,ARを題材としたアニメ作品である電脳コイルに出てくる監視キャラのサッチーが神社などには入れないように,AR禁止エリアのような概念が出てくると予測した。

望まれるリッチなグラフィックス表現

 討論では次に,ARの商業化に向けて,技術面での課題について議論が展開していった。アスカラボの角田氏は,「光源など見た目のリアリティが大切なのではないか」と問題提起した。DNPのもたい氏も,「現在は表示系が弱くアピールできていない」とした。「用途としてアイデアはあるものの,スペック的に無理なケースが多々ある」。

 NECマグナスコミュニケーションズの山崎氏は,携帯電話の機能として,例えばセキュリティを重視したJavaではユーザー・アプリケーションから内蔵カメラを利用できないという問題がある点や,GPSを用いた位置情報で高い測位精度が得られるかどうかが分からない点を指摘した。

 こうした技術面の議論を受けて,ヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)など,ARのための端末についても話が及んだ。アスカラボの角田氏は「ゴーグルを覗き込む体験には捨てがたいものがある」としてHMDを支持。NECマグナスコミュニケーションズの山崎氏も,ARで作業指示などを出す工事現場向けのヘルメットなどの有用性を挙げた。

 AR普及のためのキラー・アプリケーションとしては,アスカラボの角田氏は,同社が手がける遺跡復元などのような(関連記事),「大迫力のグラフィックスなのではないか」と展望した。NECマグナスコミュニケーションズの山崎氏は,ARによって携帯電話のキー操作を軽減するというビジョンを紹介した(関連記事)。