大日本印刷の情報コミュニケーション研究開発センターSPメディア研究所に所属するもたい五郎氏
大日本印刷の情報コミュニケーション研究開発センターSPメディア研究所に所属するもたい五郎氏
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 「ARの適用領域は,広告/販促から教育/出版へ,そしてどこにでも広がっていく」---。印刷メディア事業を中核とする大日本印刷(DNP)でARの活用方法などの研究に従事する,もたい五郎氏は2009年2月26日,ITproビジネス・カンファレンス「AR(拡張現実)ビジネスの最前線」で講演し,ARを適用したビジネス事例を多数紹介した。

 もたい氏は,自身のタスクを,「AR技術を使って,実物と組み合わせた“驚きと共感”のコミュニケーションの場を提供する」ことと定義する。絵本に画像情報を重ね合わせるなど,コンピュータが作成した仮想的な情報を現実の世界にオーバーラップさせ,その場にないものをイメージングさせる,という活動である。「DNPの中核は,印刷技術と情報技術の組み合わせ。この方向の1つの到達点がARだ」(もたい氏)。

 DNPが手がけた多数のAR事例も紹介し,着実にARの波がやってきていることを示してみせた。ARに対応した絵本の「DNP 飛び出す電子絵本AR Book」,インテリアをシミュレーションする「DNP インテリアシミュレーション」,美術展示の表現力をARで高めた「ルーヴル - DNP ミュージアムラボ」などである。

 実際にDNPが手がけたユーザー事例も動画映像付きで紹介され,会場の注目を集めた。事例の1つは,セイコーウオッチの事例「ヴァーチャルウォッチフィッティング」。専用のリスト・バンドを身に付けて腕をカメラに写すだけで,あたかも自分の腕に腕時計を身に付けているかのような映像を得られる,というシナリオだ。

 もう1つの事例は,アディダス ジャパンが「アディダス パフォーマンスセンター 銀座」の1周年を記念して実施したキャンペーンである。これは,DM(ダイレクト・メール)を持参してカメラの前に置くことと,DMを金,銀,銅の3通りに分類してグラフィックスで表現してくれるという趣向だった。インパクトのある体験によってDMの効果が高まるというシナリオである。

 DNPでは,ARアプリケーション開発の基盤ソフトとして,独metaioのものを利用している。この理由として,もたい氏は,「2~3年前に各種のミドルウエアを調査したところ,顧客にARアプリケーションを提供する際に,開発のしやすさやライセンスなどの面で,独metaioが最も適切だった」と説明した。