写真●日本IBM 未来価値創造事業 執行役員の岩野和生氏
写真●日本IBM 未来価値創造事業 執行役員の岩野和生氏
[画像のクリックで拡大表示]

 2009年2月24日,東京都内で開催中の「クラウド・コンピューティング フォーラム」において,日本IBM 未来価値創造事業 執行役員の岩野和生氏(写真)が登壇し,ビジネスを成功させるクラウド環境をいかに実現するかを指南した。

 岩野氏はまず,現在のコンピューティング環境の課題について説明した。「デジタル・データは18カ月で2倍というスピードで膨張し続けている。2007年には世界のデータ量は281エクサバイトだったものが,2011年には1800エクサバイトに達すると予想されている」(同氏)。一方で,企業を超えたビジネス協業がますます増え,組織を乗り越えれられるITインフラが求められている。「今後,ITガバナンスとサービスのマネジメントが最も重要な課題になる」と岩野氏は明言する。

 クラウド・コンピューティングは,こうした課題に対し,一つの有力な解を提供する。「ユーザー企業はITインフラをサービスとして購入することで,ビジネスを柔軟に拡張でき,導入時間も大幅に短縮できる。エンタープライズ・クラウドが企業組織のあり方や,IT産業の構造さえも変えていくだろう」と岩野氏は展望する。

 次いで岩野氏はIBMにおけるクラウド・コンピューティングの活用事例を紹介した。IBM Research Compute Cloud(RC2)は,世界12カ所の基礎研究所で働く3000人の研究員を対象に,研究に必要なITリソースをオンデマンドで提供するサービスである。研究者がワークフローに従ってリソースの要求書を作成・申請すれば,所定の承認プロセスを経て,利用可能の案内がメールで届く。「運用はすべて自動化されており,申請してから利用開始までの時間は,クラウドの導入以前は2週間ほどかかっていたが,わずか10~20分でITリソースを利用できるようになる。開発環境の効率化が加速するのは間違いない」(同氏)。

 もう一つの事例は,IBM Technology Adoption Program(TAP)。世界中の12万5000人以上の技術者がビジネスのアイデアやソフトウエアをWeb上に登録していたものを,クラウドを活用してサービス化したところ,年間のシステム運用コストの83.8%を削減できたという。また,TAPで実装したプロジェクトの27%を製品やソリューションとして外販している。

 クラウドが産業構造を変えるという端的な例としては,中国の無錫(むしゃく)に開設したクラウド・コンピューティング・センターを取り上げた。無錫はもともと中国政府がアジアのシリコンバレーにしようと戦略的に投資を行っており,20万人ものプログラマ集団が働いている。「ここにクラウド・コンピューティング環境を導入したことで,世界から業務を請け負うアウトソーシング拠点へと変貌しようとしている。産業構造を最下層から最上位へと転換したケースだ」と岩野氏は強調する。

 コンピューティングの世界では,ストレージやデータベースをサービスとして提供する会社や,プラットフォームやITインフラをサービスとして提供する会社など,様々な提供モデルが乱立しつつある。「“クラウドのエコシステム”が作られようとしている。企業は,このエコシステムの中で自らをどう位置づけるか,どのようなサービスを立ち上げ,ハイブリッド・クラウドを実現するかという戦略を考えることが重要だ。業界ごとのクラウドや企業グループのクラウドなども出現する。こうしたサービスを活用しながら,いかに生産性効率を上げ,ガバナンスを利かせていくかが,ビジネスを成功させる鍵になる」。岩野氏は最後にこう語り,講演をしめくくった。

■変更履歴
クラウド・コンピューティング フォーラムの日付けを「2008年2月24日」としていましたが,正しくは「2009年2月24日」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/02/25 15:00]