写真●京セラコミュニケーションシステム 専務取締役 ICT事業統括本部長の佐々木節夫氏
写真●京セラコミュニケーションシステム 専務取締役 ICT事業統括本部長の佐々木節夫氏
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 「クラウド・コンピューティングの導入はコスト削減などのメリットをもたらす一方で,ネットワークが複雑化するなど課題も多い」---。2009年2月24日,都内で開催された「クラウド・コンピューティング フォーラム」に京セラコミュニケーションシステム 専務取締役 ICT事業統括本部長の佐々木節夫氏が登壇。「クラウドって本当にいいの?」と題して,クラウド・コンピューティングの課題について意見を述べた。同社は,2008年10月から仮想サーバーや仮想ストレージなどのHaaS(Hardware as a Service)を提供している。

 講演では,同社がSaaSの一つ,Google Appsの導入を支援したユーザー事例を紹介。この企業は,社内システムのリモート機能強化や,社内メールと社外メールの統合などを目的として,グループウエアをクラウド・コンピューティングに移行した。当初の目的は達成されたものの,クラウド・コンピューティングの導入を通じて,様々な課題が浮上したという。

 「まず,ネットワークが非常に複雑化してしまった」(佐々木氏)。このユーザー事例では,一部の業務アプリケーションのみをクラウド・コンピューティングに移行したため,業務アプリケーションが社内とクラウド上に混在することになった。その結果,社内LANやWAN,携帯電話とクラウドをセキュアにつなぐために,複雑なネットワーク構築が必要になったという。

 また,Google Appsの提供するアドレス帳などの機能が,日本の企業文化に合わず,社員に不評だった。佐々木氏は「Google Appsの提供するアドレス帳は登録者をフラットに表示するが,日本企業では組織階層で人を探したいという声が多い」と説明する。「結局,この企業では社内とクラウド上に2通りのアドレス帳を保有することになった」(佐々木氏)。

 最も問題になったのは,運用管理面である。退職者の登録抹消や,中途採用者の新規登録などの運用の利便性が悪く,「退職者が退職後もGmailを使い続けているケースが実際にあった」(佐々木氏)という。

 このように解決すべき課題が残るものの,佐々木氏は「クラウドの流れは不可避である」と考える。「物理システムをタンス預金だとすれば,クラウドは銀行のATMのようなものだ。どちらを信用するかという問題ではなく,今後,何らかの形で使うことになる」(佐々木氏)。

 今後,誰もが利用する可能性があるクラウド・コンピューティング。佐々木氏は「今から積極的にクラウドを利用しようという姿勢を持つことが大事」と考える。まだ解決すべき課題が残るなかで,クラウド・コンピューティングを有効に活用するためにはどうすればよいのか。

 重要なことはアプリケーション・ベンダーに参加してもらうこと。そしてSaaSありきで考えるのではなく「現行の業務プロセスとクラウドのサービスメニューを見比べて,どのサービスメニューを使うかをユーザーが選択することが大事だ」(佐々木氏)という教訓を語った。

 さらに「現時点では,アプリケーションを完全にクラウドに移行することはできない。下手に併用すると複雑化してしまう」(佐々木氏)。佐々木は次のように提案した。「まずはHaaSから体験していくのがよいだろう」。