写真1●会場の様子
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写真2●JTBの野々垣典男IT企画部長
写真2●JTBの野々垣典男IT企画部長
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写真3●ローソンの横溝陽一 常務執行役員 CIO ITステーション ディレクター
写真3●ローソンの横溝陽一 常務執行役員 CIO ITステーション ディレクター
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 クラウドコンピューティングは企業情報システムを、そしてIT部門をどう変えるか――。2009年2月24日の「クラウド・コンピューティング フォーラム」最後のプログラムでは、大手企業2社の情報システム担当者が経営とITの立場からクラウドの意義をパネル討論形式で語った(写真1)。

 登壇したのはジェィティービー(JTB)の野々垣典男IT企画部長(写真2)とローソンの横溝陽一 常務執行役員 CIO ITステーション ディレクター(写真3)。モデレータは日経コンピュータ編集部長の桔梗原富夫が務めた。

 JTBは2015年をメドにした長期のIT戦略を推進中。その一環として、旅行の予約・販売を担う基幹システムを、この4月にメインフレームからオープンシステムへ移行する。ローソンもマーケティングや情報共有の改革を目指した次期基幹システム「ローソン3.0」を構築中だ。

 両社ともクラウドの活用を次期IT戦略の有力手段とみている。JTBはマイクロソフトの「Exchange Server」で運用していたメールシステムを、グーグルの「Google Apps Premier Edition」に移行するべく検証中。ローソンはセールスフォース・ドットコムのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)である「Force.com」を使って、既存のグループウエア「ノーツ」で構築したシステムをWeb化したり、自社と取引先などを結んだWebシステムの構築を進めたりしている。

コストだけが利点ではない

 企業にとってクラウドコンピューティングを使う利点といえば、情報システムのコスト削減にまず目が向く。自社でハードやソフトを所有する場合に比べて、利用者数や使用量に応じてコストを調節しやすいからだ。野々垣部長も「ユーザー企業のIT部門は経営層からコスト削減の圧力を受けている。コスト削減は大きな魅力だ」と述べた。

 横溝常務が挙げたクラウドの魅力は導入や展開のスピード。「従来のシステム開発では、ハードとソフトを購入して数年かけてシステムを構築した後、ようやく活用や効果測定といった段階に移れる。クラウドならばまず使ってみて、効果をすぐに確かめられる」。

 その上で両氏は、「ユーザー企業のシステム部門にとって、クラウドにはもっと本質的な利点がある」との見方で一致した。JTBの野々垣部長が挙げたのが、「IT部門の本業回帰」である。「新規システムの社内での活用や社外に向けた新規ビジネス開発など、IT部門の本来の役割に時間を割けるようになる。プロが運用するクラウドにITインフラを任せることで、システムがうまく動くかどうかを心配しなくてよくなるからだ。本来、ユーザー企業のIT部門はシステムが動くかどうかを心配するのでなく、費用対効果を高めたり、使い方を工夫したりすることに力を注ぐべきだ」(野々垣部長)。

 横溝常務もこれに同意。「今まではユーザー部門からの要求に応じたシステム開発に、多大な時間がかかっていた。クラウドは導入から効果を検証するまでの時間を短くできる。その分、作った後の業務改革に注力できる。私はIT部門こそが経営変革をリードするべきだと思っている。クラウドをうまく活用すれば、IT部門は改革の先導者になれる」。

 一方、クラウドの利用に不安はないのか。最近では米グーグルの「Google Apps」で大規模な検索障害が起きるなど、クラウドの信頼性に疑問符が付く事態が起きている。外部のベンダーに自社のデータを預けることを不安視する意見もある。

 両氏は「セキュリティや信頼性に不安があるのは事実」としながらも、「適用分野を見極めれば、不安やリスクよりも利点が上回る」と述べた。「外部にデータを預けることに対するセキュリティの不安はよく耳にする。しかし実際の情報漏洩事件は自社の社員が引き起こしたりするもの。データを預けている場所だけがセキュリティの問題ではない」(横溝常務)。

 野々垣部長も「不安がないというと嘘になるが、自社でシステムを運用しても障害は起きる。むしろプロが運用するクラウドの方が障害に素早く対応できたり、ノウハウを生かして障害を防止したりできるのではないか」。