「クラウド・コンピューティングの分野では“分散から集中へ”と“集中から分散へ”という二つの動きがある」。日経コンピュータの中田敦記者(写真)は2009年2月24日,「クラウド・コンピューティング フォーラム」の講演で,このような解説をした。
中田記者は昨年,米国のクラウド・コンピューティングの動向を取材。Amazon.comやGoogle,MicrosoftといったIT関連企業を取材した結果などを基に,上記のような見解を示した。
“分散から集中へ”という動きは,コンピュータの物理的な配置で起こっていると,中田記者は指摘する。「データセンターにサーバーやストレージ,ネットワークなどの設備を集中することで,『規模が大きければコストが下がる』という規模の経済が働くためだ」(中田記者)という。
また米国のIT企業がデータセンターを構築するときには,効率的な方法を使っていることを紹介。Microsoftがシカゴに構築したデータセンターでは,冷却装置を備えたコンテナ220台を,広大な駐車場のようなスペースに配置していると紹介した。収容できるサーバー台数は50万台ほどになるという。
このコンテナには,冷却装置として水冷エアコンを搭載している。「冷水を引き込むことでコンテナ内を冷やし,サーバー以外の電力消費も抑制している」(中田記者)。それがデータセンターの大規模化を可能にし,規模の経済を加速している点に言及した。
一方,“集中から分散へ”という動きがあるのは「データ処理形態だ」(中田記者)という。「プロセッサやハードディスク単体の性能向上が止まった現状でスループットを上げるには,プロセッサやハードディスクを並列にして処理するしかない。今まではWebサーバーやアプリケーション・サーバーにとどまっていた並列処理が,今後はデータベースにも広まっていくだろう」(中田記者)。
データベースで並列処理が広まるのは「Webサイトの検索処理や,ECサイトでショッピング・カートに商品を入れるといった処理になる」と中田記者はみている。「金融機関などの決済処理などでは,データの一貫性を保証する仕組みが必要になる。(クラウドはデータ一貫性を100%保証できないことがあるためデータベースへの利用は難しいとの見方があるが)クラウド・コンピューティングを進めるIT企業は,『世の中のデータ処理すべてに,一貫性を保証する仕組みが必要なのか?』という問いかけをしている」と,中田記者は分析する。