日本インターネットプロバイダー協会副会長の立石聡明氏(撮影:後藤究)
日本インターネットプロバイダー協会副会長の立石聡明氏(撮影:後藤究)
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 「IPv6導入の最大の課題は,IPv6マルチプレフィックス問題である」---。2009年2月23日,ITproテクノロジ・カンファレンス「プロバイダ/データセンターのIPv4アドレス枯渇対策」に社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)副会長の立石聡明氏が登壇。NTT東西のNGN(次世代ネットワーク)上でインターネット接続事業者(ISP)のIPv6インターネット接続サービスを利用すると通信に不具合が生じる「IPv6マルチプレフィックス問題」の解決策について説明した。

 IPv6マルチプレフィックス問題は,NGNがIPv6の閉路網になっているために,IPv6アドレスを持ったユーザー端末がNGNのネットワーク網を超えて通信をしようとするときに支障をきたすものである。この状態を立石氏は「IPv6アドレスを持った端末が通信するときに,NGNとISPのプレフィックスのどちらを取るか分からない状態」と説明する。

 JAIPAとNTT東西は,IPv6マルチプレフィックス問題について「総務省の要請に応じて計50~60回の公式協議を行っている」(立石氏)。総務省はNTT東西へ対して,NGN認可条件として「IPv4からIPv6への移行に伴う諸問題について,ISP事業者等との積極的な協議を行うこと」を要請している。

トンネル方式とネイティブ方式それぞれについて2種類の実現策がある

 これまでの協議の結果,IPv6マルチプレフィックス問題を解決するための方策として「トンネル方式」と「ネイティブ方式」の2方式が浮上した。トンネル方式は,NGNのネットワーク網に,IPv6接続を確立するためのトンネル網を構築するというもの。「トンネル方式を採用する場合,ISPがトンネル網を構築するのか(案1),NGN側がトンネル構築するのか(案2)が問題になる」(立石氏)。一方,ネイティブ方式は,NGNからユーザーにIPv6アドレスを割り当てるものである。

 「トンネル方式」と「ネイティブ方式」のうち,IPv6マルチプレフィックス問題の解決策として技術的に望ましいとされているのはネイティブ方式である。ネイティブ方式は,NGNのIPv6アドレスだけで通信するので,IPv6マルチプレフィックス問題が根本的に発生しなくなる。また,トンネル方式には「トンネル構築によるネットワーク負荷が余分にかかること」や「トンネルの終端装置がユーザー宅に必要になること」,「NGNのアプリケーションと整合性を保つ必要が生まれること」などのデメリットがあるが,ネイティブ方式はこれらのデメリットをすべて解決する。

 立石氏によると,JAIPAとNTT東西との間では,ネイティブ方式を採用する場合の具体的な方法として,2つの案が協議されているという。1つは「NTT東西がインターネット接続を提供し,ISPはローミング利用によって会員管理などを行う」というもの(案3)。もう1つは「NGNにゲートウエイ・ルーターを設置し,代表ISPがIPv6による接続を提供する」というもの(案4)である(関連記事)。「案3はあまり現実的ではない,採用される可能性があるのは案4である」(立石氏)。

 しかし立石氏は,ネイティブ方式を採用する案4について「公正競争上,非常に大きな問題が生じる恐れがある」と警告する。立石氏は「案4の代表ISPは,技術的に3社に絞られる」と説明した上で,「3社しか利用できない方式を採用するのは問題だ」と述べた。NTT東西がインターネット接続を提供する案3の場合は,NTT法によってISP事業者へのサービス提供を拒否できない。一方,案4のISP3社は,現状法的規制を受けないため,合法的にサービス提供の拒否ができるというのである。「案4の代表ISP3社が,M&Aなどによって一瞬で1社になるシナリオも想定できる。簡単に寡占,独占できてしまう」(立石氏)。

 「トンネル方式にはデメリットもあるが,ISPの独自性が保てるというメリットがある」(立石氏)。ISP事業者によって,ネットワーク構成や帯域制御の有無,フィルタリングの有無などは大きく異なるが,立石氏は,このようなサービスの多様性を確保することの重要性を強調する。「たとえばフィルタリングの独自性が失われた場合,国民の知る権利や,表現の自由が奪われる可能性がある」(立石氏)。