松江オープンソース活用ビジネスプランコンテスト実行委員会は2009年2月20日,同コンテストの最終審査会を開催し,受賞者を決定した。ビジネス活用部門の最優秀賞には有限会社クラフトの「音声通信によるマルチキャスト配信サービス」,学生部門の最優秀賞には松江商業高校の今村彩氏の「わんわんシッター」が選ばれた。

 同コンテストは,松江市や,島根県の産官学による団体「しまねOSS協議会」などが開催したもの。松江市は,同市に在住するまつもとゆきひろ氏が開発したオープンソースのプログラミング言語「Ruby」による産業振興を図る「Ruby City Matsue」プロジェクトを推進している。このことから「オープンソース・ビジネスの可能性に光を当て,オープンソース活用の気運を醸成する」(実行委員会)ことを目的としコンテストを開催した。

 募集は一般を対象にした「ビジネス活用部門」と,学生を対象にした「学生部門」に分けて行われ,ビジネス活用部門へは11件,学生部門へは12件の応募が寄せられた。この中から各部門4件が最終審査会でプレゼンテーションを行った。

ビジネス部門最優秀賞はAsteriskを活用

 ビジネス活用部門で最優秀賞に選ばれた有限会社クラフトの「音声通信(電話)によるマルチキャスト配信サービス」は,電話で音声による伝言を複数の電話へ一斉に発信するもの。オープンソースのIP-PBXソフト「Asterisk」をカスタマイズし実現した。クラフト 取締役社長 田口和生氏が地元岡山県で消防団に加入しており,団の連絡が電話による伝言で一人ずつ行われているのを見て発案したという。「高齢者など,メールが使えない人もいる。またメールでは読まれたかどうかわからないが,相手が電話に出たかどうか表示されるようにした」(田口氏)。

ビジネス活用部門の最優秀賞に選ばれたクラフト 取締役社長 田口和生氏(写真提供:松江オープンソース活用ビジネスプランコンテスト実行委員会)
ビジネス活用部門の最優秀賞に選ばれたクラフト 取締役社長 田口和生氏
(写真提供:松江オープンソース活用ビジネスプランコンテスト実行委員会)
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表彰状を授与する松江市長 松浦正敬氏(左)とクラフト 取締役社長 田口和生氏(写真提供:松江オープンソース活用ビジネスプランコンテスト実行委員会)
表彰状を授与する松江市長 松浦正敬氏(左)とクラフト 取締役社長 田口和生氏
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 優秀賞に選ばれたのはスタジオインフィニティLLPの「オープンソースを用いた注意機能診断検査のASP化」。スタジオインフィニティLLPは名古屋大学の学生が設立した学生ベンチャーで,同大学名誉教授の八田武志氏が考案した脳損傷患者向けの注意機能検査ソフトをASP化し医療機関に提供するというビジネスモデルを提案した。検査ソフトは患者が画面の問題に答え,その反応により脳機能障害の可能性を判定するもの。prorotype.jsなどのオープンソース・ライブラリを利用しAjaxによるユーザー・インタフェースを作成する計画である。

 奨励賞に選ばれたritaplusの「ritaPC(リタ ピーシー)」は,中古パソコンをCD起動のLinux「Puppy Linux」で再生し,社会的弱者向けに無料で提供するもの。マニュアル販売やブロードバンド回線の再販などを収益源とする。

 同じく奨励賞となった平田直毅氏の「オープンソースPaaS プラットホーム『Magic3』による双方向コミュニケーション型地方メディアサイトの運営」の運営は,平田氏が開発したオープンソースのCMSであるMagic3で,地方と都会の交流や物販,観光などを促進するもの。サイトの運営を有償でサポートするビジネスモデルである。

学生部門最優秀賞は「わんわんシッター」

 学生部門の最優秀賞に選ばれた島根県立松江商業高校 情報処理科3年生の今村彩氏の「わんわんシッター」は,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用したペットシッター・サービス。SNSと組み合わせることで「コミュニティでペットの話や相談ができ,愛好家の輪が広がる」(今村氏)ことを狙う。ペットショップやペットフードの広告獲得も目指す。今村氏自身が「外出中にペットのことが心配で,不在中のエサやりに悩んでいた」ことから考案したという。RubyベースのオープンソースSNSであるSKIPの利用を想定している。

学生部門の最優秀賞に選ばれた松江商業高校 今村彩氏(写真提供:松江オープンソース活用ビジネスプランコンテスト実行委員会)
学生部門の最優秀賞に選ばれた松江商業高校 今村彩氏
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表彰状を授与する松江市長 松浦正敬氏(左)と松江商業高校 今村彩氏(写真提供:松江オープンソース活用ビジネスプランコンテスト実行委員会)
表彰状を授与する松江市長 松浦正敬氏(左)と松江商業高校 今村彩氏
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 優秀賞に選ばれた松江工業高等専門学校 玉村尊明氏の「組織内ネットワーク認証システム構築ビジネス」は,オープンな認証プロトコルであるOpenIDとオープンソースの認証ソフトウエアOAuthを利用した認証システムを構築するビジネス。玉村氏は実際に高専でOpenIDとOAuthを利用したインターネット・アクセス・ゲートウエイ・システムを構築したという。

 奨励賞に選ばれた松江商業高校 の「耕せ!! しまね」は,SNSにより島根県の農家と全国の消費者が交流し,顔の見える安心な農作物を販売するというもの。SNSにオープンソースの利用を想定している。

 同じく奨励賞に選ばれた松江高専の板持貴之氏の「多地点間での遠隔資料同期システムの環境一式構築ビジネス」は,同氏が高専で開発しオープンソースとして公開予定のソフトを活用するもの。あらかじめ配布済みのプレゼンテーション資料を,同期して表示しマウスポインタも同期するソフトである。指示している箇所とポインタの情報だけ送るため,ネットワークの帯域が狭い環境でも利用できるとしている。